時刻表の部屋

カテゴリー「心霊・幽霊」

「あぁ、有名だよ。そのマンション」

しれっとした顔でその女性は言った。
彼女は不動産関係に従事している者で、俺と友人との共通の知り合いでもある。

彼女(不動産関係):「まったく、決める前に一言相談してくれれば、止められたのにさ。あそこってこの業界じゃ、それなりに名が売れちゃってる物件だからね。私だったらすぐ気がついたのに」

そう口を尖らせて言う。

そんなに悪名高いの、あそこ?
越した直後に俺も遊びに行ったけど、その時は全然わからなかったな。

彼女(不動産関係):「集団引っ越しがあったのは八階でしょ?多分、その一つは“時刻表の部屋”で間違いないと思うよ」

何だいその“時刻表の部屋”って?

彼女(不動産関係):「部屋の柱の一つにね、時刻が刻んであるの。写真で見たことある。“-23-50-”って読める数字が彫り込んである。何度か内装業者が上から隠してるんだけど、住人が部屋出る時にはなぜかまた浮き出てるみたい。住んでた人が毟ったのかどうかは不明だけど」

俺:「数字が時刻とは限らないんじゃないかな。」

彼女(不動産関係):「聞いた話じゃね、毎晩じゃないらしいけど、深夜の十一時五十分になると、コンコン叩かれるんだってさ。窓ガラスが」

俺:「・・・八階だよな。誰が叩いてるんだよ。」

彼女(不動産関係):「知らないわよ。しつこく叩かれるからさ、カーテン開けて外を確認する訳。そしたらさ、目の前のベランダには誰もいないんだって」

俺:「・・・まぁ良かったかもな、変なモノが見えなくて。」

彼女(不動産関係):「見えるのよ。そこのベランダじゃなくて、斜め前の部屋のベランダに。黒っぽい人影が、そこからピューって身を投げるのが」

俺:「そこのベランダって、もしかして。」

彼女(不動産関係):「そそ、あの子の住む部屋の真上。大体あの部屋、十年足らずの内に都合三人が身投げしちゃってるから。またしばらく塩漬けになるでしょうね。担当者は頭痛いと思うわ」

知り合いの住処だけに、聞いてるこちらも頭が痛くなりそうだ。

彼女(不動産関係):「今回引っ越しした部屋って、その身投げ部屋が見える位置にある所ばかりなのよ。ひょっとしたら、他の部屋も窓コンコンされてたかもね」

仏頂面のまま、知り合いはそう教えてくれた。

俺:「そんな怖い部屋って、あるモンなんだな。」

私が溜め息吐きながらそう言うと、知り合いは首を振ってこう返した。

彼女(不動産関係):「“時刻表の部屋”は、怖いけど害があるって訳じゃないわ。もっと怖ろしい部屋がある」

俺:「・・・何なのさ、その部屋って。」

彼女(不動産関係):「入居した人がね、半年も経たないで自殺しちゃうって部屋があるらしいの。なんか洒落にならない数が逝っちゃってるって噂なのよ。あんまりヤバイんで、今は物置って形で使えなくしちゃってるみたい」

俺:「おいおい。それだけヤバかったら、瑕疵物件とやらで話題になるんじゃないか。
俺もそこそこ長いけど、流石にそんなレベルのもの、聞いたことないぞ。」

彼女(不動産関係):「自殺するっていってもね、皆が皆、遠く離れた余所の場所で死んでるの。部屋の外で死ぬと、不動産の瑕疵条件には当たらないのよ」

俺:「・・・それもそうか。でも本当かよ、それ。」

彼女(不動産関係):「過去に何度か御祓いとかもしてるみたいなんだけど、効果無いって。霊能者にも見て貰ったけど、何も見えない、わからないって言うらしいわ。ただ、何か非常に濃いモノを感じるって」

俺:「何が濃いっていうのか、我々凡人にはまず掴み所のない話だな。」

彼女(不動産関係):「まったくね。だからその部屋は“濃厚な部屋”ってこっそり呼ばれてる。とは言え、実際、部屋に原因があるかどうかなんてわからないけど」

彼女(不動産関係):「でも、この部屋に入って自殺した人って皆、ある共通点があるの。必ず自分の部屋から持ち出した物で、首吊ってるんだって」
「まぁ偶然かも知れないけどね・・・」と彼女は最後に付け加えた。

彼女は続けて言う。

彼女(不動産関係):「コレに限らず、あそこって変わった部屋がまだあるのよ」

聞くと“鎧の部屋”というのもあるらしい。

彼女(不動産関係):「夜寝ているとね、枕元に鎧武者が立ってウォー!ウォー!って叫ぶんだって。刀振り回しながら。それだけみたいなんだけど、住人が居着かない。今は人を入居させずに、マンションの集会所みたいな使われ方してるって」

別の棟には“弓の部屋”もあるのだとか。

彼女(不動産関係):「やっぱり夜寝ていると、ビーーーン!って弓弦が鳴るような音がするの。続いて、カッ!と矢が刺さるような音が聞こえる。これが夜毎に段々自分に近づいてくるのがわかるんだって。ここも人が居着かなくて、やっぱりと言うか集会所になってる」

話を聞いて、俺は実はトンでもない場所に、それと気がつかず出入りしていた気分になった。
まったく頭が痛い。

ブログランキング参加中!

鵺速では、以下のブログランキングに参加しています。

当サイトを気に入って頂けたり、体験談を読んでビビった時にポチってもらえるとサイト更新の励みになります!