体育館での怖い話

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺の三つ上の兄貴は気合の入った硬派で知られていた。
市内の工業高校では柔道部の主将を務め、学校でも一目置かれる存在だった。
そんなある日、夜十時くらいに病院から電話があった。
兄貴がボコボコにされて病院に担ぎ込まれたらしい。

両親と俺は病院に駆けつけた。
兄貴は全身打撲でうんうん唸っていた。
医者は傷害事件かもしれないから、警察に連絡した方がいいと言ったが、兄貴は朦朧としながらも拒否したそうだ。
親も翌年に大学の推薦が決まっていたのでそれは止めた。

兄貴は一週間ほど入院して、自宅に戻ってきた。
なぜ怪我したのか、誰にやられたのか、兄貴は一切話そうとしなかった。
それから数年たち、俺は兄貴の住む東京へ遊びに行った。

夜、六畳一間の部屋で布団を並べて寝ながら、俺と兄貴は話をした。
思い出話から、あの夜の出来事に及んで兄貴は初めて口を開いた。

それは信じられない話だった。

兄貴は部活をサボって、体育館の放送室で寝ていたそうだ。
すっかり寝入ってしまい、目が覚めたのは夜だったという。
当たりは真っ暗で、体育館の照明もブレーカーが切ってあった。
それでも手探りでなんとか螺旋階段を下り、ステージの方に出た。

体育館の出入り口には誘導灯があり、そこを目指して歩いていると何かの気配を感じたらしい。
しかし周囲を見回しても、暗闇で何も見えない。
兄貴は大声で誰かいるのかと話し掛けたという。
すると、背後からバスケットボールが飛んできたそうだ。
俺ならそこで怖くなって逃げると思う。
兄貴は違った。

ボールが飛んできた方に向かって、この野郎とか喚きながら突進した。
そこから先は無我夢中であまり覚えていないそうだ。
感覚としては、相手は一人じゃなかったらしい。
四方八方から、1個のボールが兄貴に向かって投げつけられた。

逃げようとすると顔面にボールがぶつけられ、しゃがみ込むとまた飛んでくる。
ほとんどリンチだった。
どうにかドアの方まで辿り着くと、背後で笑い声がしたそうだ。
そして拍手も。

兄貴は当時のことを思い出したらしく、話し声が震えているようだった。

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