人を呪わば穴二つ

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

それまで住んでいたアパートが建替えで取り壊される事になり、先日、似たグレードの安アパートを探して引っ越した。
で、引越し先で隣人に挨拶をしがてら、今更だけど、それとなく自分の部屋が事故物件だったりしないか探りを入れてみたw

結果としては、前の住人(男性)は少なくとも一年以上住んでいて、つい先日、普通に引っ越して行ったと分かった。
それでまあ安心して新生活に突入した。

入居3日目、部屋に帰ると見知らぬ中年女性がドアの側に立っていて、「この部屋にお住まいの方ですか?○○さんですか?」と尋ねて来た。

○○という名に心当たりは無かった。

ドアの表札にはまだ自分の名前は入れてなくて名無しのままだったので、何かの業者が新入居者の名前を聞き出そうとでもしているのかと思い、「自分は先日引っ越してきたばかりで、○○という人は知りません」とだけ答えると、その女性はひどく困った風にして「申し訳ありませんが、あなたの部屋の押し入れを調べて欲しい」と言ってきた。

いよいよ怪しさ爆発で、形ばかり丁寧に断って室内に逃げ込もうとすると、「押し入れの中に封筒が張ってあるはずだから、それだけ返して欲しい」と泣きそうな顔で懇願してくる。

見た感じ、その女性は小奇麗な身なりでキの字の人とも思えなかったので、とりあえず探すだけ探してみると言って、俺は室内に逃げ込んだ。
それから言われた通りに押し入れ(大して荷物はない)を探してみたけど、どこにも封筒なんて無い。
そもそも、そんなものがあれば引っ越してきた当日に見つけている筈だった。

だが、ドアの前で待っている女性に「無かった」と言えば「自分に探させろ」と言って強引に上がり込んで来そうで怖い。
警察に連絡しようかと本気で考え始めた矢先、ふと思いついて押し入れの戸を一枚外してみた。
果たして、確かにそこには封筒、というか、和紙を折った包みが貼り付けられていた。
それは押し入れの手前側の戸の裏側に張られていたので、普通に押し入れを開けると二枚の戸に挟まれる形になって見つからないという上手い隠し方だった。

さて、物が見つかると、今度はその包みが何なのかが気になる。
見つかるまでは、もしかしたら以前の住人が忘れていったヘソクリか何かだろうかと考えていたが、見つけてみると、その包みの表には漢字とも記号ともつかないものが墨と朱で記されており、どう見ても何かのまじないの御札だと思われた。

さっきまでとは別の意味で怖くなった。

それでも好奇心は抑え難く、チェーンをかけたまま少しドアを開け、御札を見つけた事を伝えると同時に、これが何なのか訊いてみた。

当初、女性は御札の正体には触れず、ただ「返してくれ」の一点張りだったが、俺が中身を確かめようとして包みを開こうとすると慌ててそれを制止し、戸口で渋々ながらそれについて話してくれた。

女性の話では、その御札は彼女の姪が、俺の前にこの部屋に住んでいた男(こいつが○○)に対して仕掛けたものだった。
ところが間が悪いと言うか何と言うか、御札を仕掛けた直後、当の○○はその姪には内緒で部屋を退去し、直後、間髪入れずに俺が入居してしまったという次第だったらしい。(一応、清掃業者が入って畳み換えもされてたけど、御札は見逃した模様)

彼女の姪は○○を呪い殺そうとしたのか、或いは浮気の虫を封じようとでもしたのか、その辺は聞き損ねてしまったが、とりあえずその御札は本来の対象ではない俺に影響を及ぼす事はほぼ無いとの事で、俺は胸を撫で下ろした。

しかしながら、空振りしたまじないは、人を呪わば穴二つ、返りの風は三倍返し式に施術者本人に跳ね返り、しかるべき処置をしないと彼女の姪が危ないという。
そもそもこの御札は、姪を憐れんだ彼女が授けたものだそうで、姪の様子が日に日におかしくなり、何かの手違いが起きているのではと調べに来たら、○○ではなく全く無関係な俺が住んでいてビックリ仰天の大焦りだったらしい。

もっとも、嘘か本当か、御札の包みを開けて中を見てしまっていたら、俺も影響を受けずにはいられなくなっていたそうなのだが・・・。
ともあれ、こんな話にいつまでも付き合っていたくなかったので、俺はその中年女性に御札を渡し、早々にお帰り願った。

個人的には、彼女の姪は、まじないの失敗でどうにかなったというよりは、そもそも男に敬遠されて心を病みかけていたのが、御札なんてオカルトものに頼ったせいで更に悪化しただけなんじゃないか?とも思ったりする。

そうでないと巻き込まれかけた俺としては怖くてたまらん。

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