※この体験談は体験談投稿フォームよりいただきました鈍色蝶様からの投稿です。
「はーい、集合!今日はおつかれさま!」
スキーインストラクターの由希は、修学旅行の学生たちの指導に当たっていた。
「あれっ、一人足りないじゃない!」
男子生徒の一人が、上級者向けのコースに行ったきり戻っていない。
同僚たちもいっしょに探したのだが、見つからなかった。
冬山では、日が落ちると急激に体温が下がる。
心配した由希は、レスキュー隊が来るのも待ちきれず、ゲレンデの外れに足を運んだ。
「どこかで足を痛めているのかしら?」
暗い雪原の中、目を凝らして男子生徒を探す。すると、木陰に動く白い人影を見つけた。
「おーい!琢弥くん?大丈夫!?」
男子生徒の名を呼び掛けながら、近づいていく。
すると、そこにいたのは、この世のものとは思えないほど美しい女性だった。
雪のように白い肌。
長く艶やかな黒髪。
妖しいまでに紅い唇。
しかも、身に着けているのは、雪原だというのに白い着物一枚だけ。
由希の存在に気付くと、女性は美しく微笑んだ。
そのあまりの美しさに、由希は思わず見とれてしまった。
「あ、あの・・・こんなところで何を?」
女性は問いかけに答えず、由希の方へゆっくりと歩いてきた。
そして、目の前まで来ると、両手を伸ばし由希の頬にそっと手を添えた。
「なんて綺麗な女 -ひと- 性なんだろう・・・」
近づけば近づくほど、儚げな雰囲気を持った女性の美しさは増してゆく。
女性の美しさに頭がボ~っとなっていた由希は、今がどれだけおかしな状況か分かっていなかった。
こんな雪の中、着物姿の女性と二人っきり。
由希は寒さすら忘れていた。
少しずつ女性の唇が近づいてくるのを見て、由希は一瞬ハッとした。
・・・が、しかし。
「この女 -ひと- 性となら、女同士でも・・・もう私どうなってもいい。」
恐ろしく冷たいキスを受けた由希の意識は、だんだんと薄れていった。
意識と体温を奪われ、由希が目覚める事は二度となかった。
着物の女性は、意識を失った由希を雪の上に静かに横たえると、闇の中へと消えていった。
次の日の朝。
ゲレンデの外れで、凍死した由希の遺体が発見された。
けれども、その顔には、とても幸せそうな笑みが浮かんでいたという・・・・・・