瞼に傷のある不審者

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

神奈川県にある小さいコンビニに「なりきりさん」という常連客がいた。

かなりの変人で、カップラーメンを買ったあと店外で何時間も張り付き、お湯がなくなるのを見計らってそれを指摘、大声かつ粘着質にクレームを言う。

刃物を買っては、わざわざ近くの交番で自傷行為をする。(近所の雑貨屋数店では「なりきりさん」には刃物を売らないように指導があったらしい)

恐らくレプリカであろうが、警察や軍人の恰好をして徘徊する。(これが「なりきりさん」の名前の由来である)

・・・など、奇行に事欠かない人物であった。

僕がそのコンビニでバイトを始めたのと前後して、バイトの女の子のNが彼に目をつけられた。
混雑したレジ前に張り付いて話かけられ、なし崩しに雑談をするなど日常茶飯事、ストーキングもされたそうだ。
Nは友好的に接していたが、内心は不気味だっただろう。

ある日、いつもの雑談の中でNは「ハリーポッター」が好きだという話をした。
数日後、なりきりさんは、ビール腹、ぶつぶつした顔、おかしな人特有のボサボサの頭と鋭い目付きに似合わない、ハリーポッターのコスプレで店にやってきた。

その姿を見て僕とNは店の裏で笑ったが、僕は、初めて接した本物の狂った人に、若干の恐怖を覚えていた。

逆にNは、その出来事からなりきりさんの変化を面白がるようになった。

Nがスパイダーマンが、芸人の小梅太夫が、、といえば、彼はそれに「なりきった」のだ。

そしてNは、言った。

N:「わたし二重の人が好きなんです」

その後なりきりさんはしばらく店に来なかった。
半月も経ったころだろうか、再びなりきりさんが店に来た時、そのまぶたには、明らかに素人作業の、深々とした切り傷があった。

うっすらと向こう側の眼球が確認できるほど、深い傷が・・・。

数日後、契約が切れ僕はバイトを辞めた。
それからNとは連絡も取ってないし、コンビニにも行っていない。

ただ、近隣の小学校では、瞼に傷のある不審者に話しかけられることが頻出しているらしく、少なくともNには興味をなくしたようだ。

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