忌み嫌う禁忌

カテゴリー「怨念・呪い」

戦前、日本のどこかの鉱山で採鉱婦として働いてたおばあちゃんから聞いた話。

その日、その人は寝坊してしまい、起きた時には既に始業時間だったそうだ。
慌てて飯場に行ってご飯に味噌汁ぶっかけたヤツをかきこんで現場に行ったんだが、その日に行われた大発破が大失敗して、予定になかった岩盤が大崩落を起こし、大惨事になった。

飯場が臨時の負傷者収容所となり、その人は仕事そっちのけで負傷者の看病に当たっていた。
そこへ突然、腕を包帯でぐるぐる巻きにした採鉱夫の親方が入ってきて、「この中に今朝、汁掛け飯食った奴がいるだろう!」と怒鳴り始めた。

みんな大怪我してそれどころじゃないのに、どえらい剣幕の親方は負傷者の胸ぐらを掴みながら「汁掛け飯食ったのはお前か!お前か!」とひとりひとり尋問し始めて、現場は異様な雰囲気になった。

もちろん、その人は汁掛け飯を食ったことが知られるのが怖くて、ずっと黙っていたそうだ。

結局、その事故の死傷者は数百名にのぼった。
人手不足の最中の事故であり、そのせいで結果的にその鉱山の閉山が早まる事態となったそうだ。

後で知った話だが、山で働く人たちは味噌汁の汁掛け飯を異常に嫌うものらしい。
汁掛け飯の別名を「山かけ飯」と呼ぶが、それが「山欠け(崩落事故)」に繋がり、また、仕事に「味噌をつける」ということで、山仕事をする人間が最も忌み嫌う禁忌なのだという。

もちろん、その人は山がよろけて鉱山が閉山になるまで、その事を人に話したことはなかったということだ。

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