姉を狙う不審な奴

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺の家は山の中にあって隣家すら遠くて周りに全然人が居ない。
だから兄ちゃんと姉ちゃんが変な時間でも堂々と家の周りの山道とかたんぼのあぜ道をランニングしまくる。

ある日、夕方のランニングから帰った兄が開口一番で姉に「散歩行くならやめとけ」って言った。
「暗くてよく見えなかったけど、山道に不審者がいた、多分ゴミの不法投棄、なんかあったら危ないから行くな」って。

兄ちゃんは今までこんな気遣いとかしないタイプの無神経マンだったのに珍しいな?と俺は思った。
姉ちゃんは「へ~物騒だね」と言いながら「でも体動かさないと頭がすっきりしないから」とか言って夕暮れ時なのに普通に外に行こうとした。
けど兄ちゃんが本気で止めたのでそのときは諦めてた。

その後、噂には聞いてたけど不法投棄の現場なんて見たことなかった俺は兄の部屋に行って「不法投棄の現行犯ってどんなだった?警察に通報した?」と聞いたら、「実は不法投棄の現場を見たってのは嘘、だけどヘンなヤツがいたのは確か。どっちにしろ○○(姉)には山に行って欲しくないから言うなよ」と言われた。

兄ちゃんはシモネタとか性的なネタが苦手な人だったから、家族の前では言い辛い下品なこと(オナnyとか)をしている不審者を目撃したから「不法投棄してる不審者」ってことにしたのかな?と思った。

次の日、俺は兄の言う変なやつ(痴漢かな?と思っていた)が見れるんじゃないかと思って山道にランニングに行った。
真昼間だったけど、道が一番細くなって木が茂ってる場所は真っ暗だった。

そして変な人がいた。

変な人は道の外に立っててよく見えなかったけど、小柄で不恰好で変な体格してて、どうにも弱々しい印象がしたんで、障害のある人かな?って思った俺は特に怪しがりもせず走ってそれの傍を通った。
そしたらそれは俺を怖がるようにコソコソ茂みの方に隠れた。

動いたそれのシルエットは背の高い猿みたいで、人外じみててギョっとした。
そしてその動きがなんというか卑屈で、言い表しづらいけど、小心でいやらしい感じがして、なぜか俺は走りながら、「アイツは俺が若い男だったから逃げた、俺が弱そうな女とか子供だったら別の動きをするような気がする」と思った。

走ってるうちにその考えがドンドン強くなって、普段はそんな強迫観念みたいなのないのに、「あいつは相手が弱かったらきっとなく何かしてくる、家で一番弱そうな姉ちゃんが狙われる」っていう確信みたいなのができて、ムッカ~って怒りが込み上げると同時に怖くなってきたからダッシュで帰った。

家に帰ったらちょうど父ちゃんが姉ちゃんに「山道は危ないからランニング行くなら畑の道を歩きなさい」って言ってるとこだったから、俺も姉ちゃんに山に行って欲しくなくて「今、山道に超怪しい男がうろついてた!引ったくりか強盗か痴漢かも!」って話を盛って騒いだら、前々から姉ちゃんが人通りのない道を散歩することを不満に思ってた父ちゃんが、
「今日から○○(姉)は変な時間に散歩行くな!山道なんか絶対一人で通るな!」って姉ちゃんに釘を刺した。

その日の夜中、姉の部屋でゴソゴソ音がして、そのうち階段を下りてくる足音が聞こえた。
姉はそのころ資格か何かの勉強中で、根が詰まってくると夜中だろうとなんだろうと外に出てランニングしに行くのが常だった。
俺は寝ぼけた頭で「あ~姉ちゃんがランニングに行くなあ」と思っただけで、また眠っちゃった。
そして多分数時間後、玄関が開く音で目が覚めて、姉ちゃんが帰ってきたなって思った。

姉ちゃんが部屋に戻る音がしたんでまた眠ろうとしたんだけど、しばらくうつらうつらしてたらまた玄関でドアがガチャッていうのが聞こえた。
鍵の閉まった玄関を無理矢理開けようとしてるみたいで、結構派手な音でガチャッガチャッガチャッて音がして、俺は咄嗟に「ご近所さんが強盗かなんかに襲われて助けを求めに来たんじゃ?」って思って玄関に行くことにした。

でも途中でなぜか「相手に気づかれないようにしよう」って思って、足音をさせないようにゆっくり階段を降りて玄関に行った。

玄関には磨りガラスがついてるんだけど、磨りガラスの向こうが真っ黒。
家の玄関は動くものがあるとセンサーで明かりがつくようになってるんだけど、それが点いてないみたいで、でもドアはガチャガチャいってる。

よく見ると、磨りガラスの所々から外の玄関ライトの明かりっぽいのが漏れて見えてる?ような気がする。
まるで磨りガラスに何かがベッタリ密着してて、ライトの明かりを遮ってるみたい。
これって玄関のライトが点いてないんじゃなくて、玄関の曇りガラスに誰かへばり付いてるんじゃないの?と思った途端、俺が見てる前で大きくガチャッってドアが鳴って、磨りガラスにへばりついてる何かが動いたんだけど、そのシルエットが、人型のものが頭を目一杯磨りガラスに押し付けて、なんかすごく嫌~な感じで、厭らしい仕草で中を覗き見ようとしてるみたいに見えた。

直感的に、「これ普通の人間じゃない、なんかが姉ちゃんの後をついて来ちゃった」って思って急に恐ろしくなって、走り出したいのを我慢してそぉ~っと階段を登って俺は自分の布団に戻った。
ガチャガチャ言うのは静かになったけど全然寝れなかった。

山の”あれ”が家まで来ちゃったんだ。

俺一人だったらブン殴ってやるのに・・・。
父ちゃんと兄ちゃんがいるから一緒にボコボコにできるのに・・・。
でも姉ちゃんがいるから無理・・・。
ヤバい、男だけだったらあんなの怖くないのに・・・。

みたいな謎の考えが頭の中をぐるぐるしてて、すごい焦燥感とムカムカと恐怖でおしっこ漏らしそうになりながらいつの間にか寝てた。

そのあとはとくに何事もなかった。
ただ姉ちゃんはあんまり山道に近づかなくなったし、変な時間にランニングに行かなくなった。

もしかしたらあの日の夜に怖い思いをしたのかも。
そしてしばらくして姉ちゃんは仕事の都合で都会に行った。
これで田舎のこの家には俺と兄ちゃんと父ちゃんの男だけになったから、なんとなく弱点みたいなのがなくなったような気がして、もう全然怖くない。

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