幽霊知ってる女だった(後編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には【幽霊知ってる女だった(前編)】があります。

元カノのUはツレと飲みに行った時に知り合った女の子で、ちょくちょく二人で飲んだりしてる内に仲良くなって付き合い始めた人だった。
しかし、Uは男女関係が結構激しく浮気でも当たり前にすると噂を聞いたり、実際に男と遊び回ったりしてて、結局は破局となっていた。

それからも向こうからは連絡はあっても、無視して疎遠になっていた。
懐かしいと感じたトンネルも、実は酔った勢いで二人で凸した時に二人で行ったからだった・・・。
そしてカーブの花は、Uがそこで亡くなった時の物だった・・・。

疎遠になってからも、噂で亡くなったと言う話は聞いていたが、当時は俺にはもう関係無いと言って、何もしてやれてなかった。

T:「間違いなくお前怨まれてるな。いくら関係無いって葬式にも出なかったしな」

M:「しかし、どうする?やっぱお祓いとかしてもらったが方がいいんじゃないか?」

俺:「でも、そんなの全く知らないし、金も無いし・・・」

S:「俺一人知ってるぞ。寺とか神社ではないけど、知り合いが動物に憑かれたとかで、それのお祓いを頼んだ人なら」

俺:「マジか?なら頼むから聞いてもらえないか?」

S:「わかった、ちょっと待ってろ」

Sは携帯で誰かと話し始め、何やら揉めていたようだが、どうやらOKをもらったようだった。

S:「絶対今日がいいって無理言ったが、大丈夫だってよ」

俺:「本当助かるわ、今から行けるん?」

S:「昼過ぎに来てくれって。準備があるらしいから」

そんな準備しっかりする所ならイケるんじゃね?と期待しながら、早めの昼飯を食い、それからその人の家へ向かった。

着いてみると普通の一軒家だった。
チャイムを鳴らし待ってると、普通にエプロンつけたおばさんが出てきた。
まさかこのおばさんじゃねーよな・・・とか考えてると、正しくそのおばさんがお祓いの人だった。

俺はもう無理だなと思いながらも、通された居間で「事の次第を詳細に」と言われ話した。
おばさんは真面目な顔でウンウンと頷きながら聞いてくれた。
一通り話を聞いてくれたおばさんが発した一言目はこうだった。
仮名におばさんをHさんとします。

Hさん:「あたしで祓えるかはわからないけど、出来る限りはさしてもらいます。料金は普段の料金いいですか?」

俺「料金取るんですか!?ちなみにいくらに・・・」

Hさん:「経費など含め5万頂きます」

俺:「マジですか!?すいません、ローンとか出来ますか?」

Hさん:「事が事だし、構いませんよ。急いだ方がいいですし」

どうやら事態は、一刻を争う位に緊縛してたみたいだった。

Hさんの見解はこんな感じだった。
元カノUは恐らく俺を怨んでいる。

しかし、それだけではないような気がするから、普通にお祓いするんじゃ駄目かもしれない。
今回はお祓いではなく、Uの標的である俺から完全に意識を逸らし、縁を断ち切る為の物らしい。
もっと詳しく話してたが・・・よく意味はわからなかったので、要約するとそんな感じらしい。

俺:「何か俺がしなくちゃいけない事はあるんですか?」

Hさん:「あなたは特にしなくちゃいけない事はありません。しかし、周りの友達の力を借りなくちゃいけません」

Hさんは詳しく今回の内容を説明してくれた。

Hさんが言うには、力を借りるは大袈裟に言ったらしく、借りると言うより協力だった。
まず4人でお清めし、四方にお札を貼ったHさん宅2階の一室に入り、一晩そこで過ごすらしいのだが、俺は一言も発してはいけなく、逆に絶えずツレ達は話し続けなくてはいけないらしい。
寝てもいけないらしい。

言葉には言霊があり、その部屋ではUは俺の姿を認識出来ないらしく、言葉を発する者しか認識出来ないらしい。
そうする事で、意識的に俺を探し続けるUの意識から一晩時間をかけて俺を消し、俺はもういないと誤認させ、Uの中の俺を消し、縁を無くしてしまおうという事だった。

T:「つまり、俺達が絶えずに喋り続ければいいだけ?」

M:「なら楽勝じゃね?」

Hさん:「確かに喋り続けるだけですが、恐らくUさんから妨害はあると思います。どんな物かはわかりませんし、気を引き締めて下さい」

妨害って・・・:

緊張しながらHさん宅で早めに夕食を頂き、皆お風呂に入り体を清め、一晩を過ごす部屋に入った。
何て事はない普通の部屋だった。
四方、天井、畳みの下のお札さえ無ければ・・・。
皆一言も喋らずに夜を待ち、指定された時間に・・・。

Hさんが指定した時間は7時。
それまではUを家には入れないようにするし、Hさんもいるようですが、7時が来たらHさんは家を出て、Uを家に招きいれなけばならない。
極力部外者がいる事を避け、意識を完全にそらさなければならないみたいだった。

そして指定された7時が来た。
元々馬鹿の代表みたいな3人だったし、Hさんから出された普段飲めない日本酒に皆大はしゃぎ、しかし俺は万が一を考え、酒はおろか何一つ口にしてはいけないという辛い一晩だった。

だが、相槌を打つだけでも以外と時間が経つのは早くあっという間に11時に差し掛かろうとしていた。
妨害も無くこのまま何事無く一晩過ぎて欲しかったのですが、そうは行かなかった・・・。

そして時刻が11時を回った辺りで、ついにUの妨害が始まりた。

最初に聞こえたのは、廊下を歩く足音。等間隔で「ペタッ・・・ペタッ」という足音だった。

皆すぐに気付き一瞬静まり返ったが、絶えずという言葉を思い出し、また大声で騒ぎ始めた。
その後は、ラップ音?みたいにバキッカチッと部屋中から音が鳴り始めた。
だが、そこは馬鹿3人・・・恐怖より負けられるかと馬鹿な考えが勝ったのか、今まで以上に騒ぎ始めた。
特にTの騒ぎっぷりは半端じゃなく、恐怖より頼もしさを覚えた。

そして、妨害にも負けず必死に騒ぎ続け2時に差し掛かった時に、最後の妨害が始まった。
部屋中からさっきの音とは比べられない位、まるで思い切り壁を殴り付けるようにガンガン音が鳴り出し、あの嗽のようなゴロゴロの声で嗽「アァ・・・アァ・・・ガガ」と叫んでいる。
流石に馬鹿3人もこれにはビビり、騒ぎ方も小さくなり、これはヤバイと感じ始めた。

音と声は激しさを増すばかりで一向に止まず、全員蒼白になり、ついに騒ぎが完全に沈黙した。
俺は「ああ終わったな」と思ったが、時計を見ると既に5時を回っていた・・・。
堪えていた時間が思った以上に長かったらしく、日の出が上がり始め、一晩は過ぎていた。

そしてHさんが戻り、全て終わった事を知り俺達は大声で泣き叫んだ。
「やっと終わった!」と、皆で安堵の瞬間を迎える事が出来た。

そして最後に、Hさんは「二度とその山には近づくなと、次は助けられないかもしれない」と言い、私はそれを了解し、Hさん宅を後にした。
安易な気持ちで肝試しには行ってはいけないと、肝に命じる事になる事件だった。
二度と肝試しは行きません。

後日談。

あの一晩から丁度一ヶ月が過ぎようとしていた。
お祓いのお金の為バイトを始め中々忙しくしていた時に、Hさんから急に呼び出しがあり、Hさん宅に行った時にこの話をされた。

俺:「こんにちわ。すいません、お金はまだ出来てないです」

Hさん:「今回は料金の事で呼んだんじゃ無いから安心していいですよ」

てっきり料金の催促かな?と思っていたが、違うみたいで安心したが、あの時の話ならもう関わりたくなかったので、嫌な気分になった。

俺:「で、話とは何ですか?」

嫌々だが俺に関わりある話だし、注意事項なら聞いておかなければならない。

Hさん:「実はあの時のUさんが、少し普通の霊とは違う理由を調べたりしてわかった事が色々あるから、一応伝えておこうと思ってね」

幽霊云々自体が元々普通じゃないと思うが・・・そう思ったが黙って話しを聞いた。

Hさん:「あの時はあんな言い方をしたけど、実際Uさんはあなたを怨んだりしてない。むしろ好意がずっとあったと思う」

俺:「はい?そんなはずないでしょ。あんな風に憑き纏って妨害して多分殺そうとしてたのに、好意とかあるはずないじゃないすか」

実際好意を持った相手にあんな事するとは思えなかったし、幽霊ってだけで恐怖心しかなく、あれが好意からの事だとしても無理だ。

Hさん:「そう思っても仕方ないよね。あれはUさんの意思じゃなく、その裏にいる者の意思だから、元が人間かどうかすらわからない物だけどね」

幽霊だけでもあんな事無かったら信じてすらないのに、漫画みたいな話をされても今いち「?」としかならなかった。

Hさん:「実は、家に来た時点でUさんの意思ではないと気付いてたの・・・でもね、それをあなたに伝えたら、あなたは少なからず可哀相とか同情の気持ちを持つでしょ?それは、あの一晩を過ごすなら絶対に持ってはいけない気持ちだったの」

俺:「何故駄目なんです?関係あるんですか?」

Hさん:「同情心を出せばあなたは助からなかった。Uさんに見つかってたから・・・あなたの意識を恐怖だけに満たして、Uさんから意識を逸らさなければならなかったの」

自分の為だと理解し何となくだが、納得したが肝心な事を聞けてない。

俺:「Uはあの後どうなったんですか?Uの意思じゃないならなんだったんです?」

Hさん:「あなた達が一晩過ごしてる間、私は私の先生の所に行ったの。見てわかる通り、私は世間じゃ心霊研究家で通ってるの。私の先生も似たような感じだけど、私以上に詳しいし、長年この世界にいるから、失敗したらの話を聞きにね」

失敗したかもしれないのかよ・・・。
そう思ったが、自分達じゃどうしようも無かったから仕方ないと思う事にした。

Hさん:「あなた達が行った山だけど、色々な怪談があると思うけど、知ってる?」

俺:「はい。カップルの幽霊だったり、婆さんの幽霊だったり、色々噂は一通り聞いてます」

結構有名な所だから、噂が絶えないような場所だった。
だからか色々話しは聞いていた。

Hさん:「実はそういった噂じゃない、本当にヤバイものがあの山にはいるって先生から聞いてね、多分それのせいだと聞いたの。詳しくはわからないけど、『禍垂』(カスイ)と言うらしいの」

俺:「禍垂?」

正直ついていけなかった・・・そんな漫画みたいな話されても理解出来ないし、幽霊だけで精一杯だったから。

Hさん:「詳しくは本当にわからないの。多分元は人間だけど、いつからいるのか、何の因果で山にいるかも何もわからないの。禍垂も見た目から先生がつけた名前だし、本当の名前もわからない」

俺:「でも、俺と何の関係があるんですか。禍垂なんて聞いた事すらないし」

幽霊とは無縁の零感男だったし、そんなの噂すら知らなかった。

Hさん:「推測だけど、Uさんは禍垂に引き込まれたんだと思うの。だからUさんと縁があったあなたを、標的に選んだんじゃないかしら。あなた『木の上の人を見た』と言ったでしょ。それが恐らく禍垂と思う。
あなたは木の上に立ってたと言ったけど、正しくは違うの。両手だけで木に垂れ下がり、下半身がない風貌の者なの。だから禍垂・・・先生は、本当に危険だって、今回は本当に運が良かったって」

あまり見えなくて本当に良かったと思った。
あの状況ではっきり見えてたら発狂間違いない・・・。

俺は頭の整理が全くつかなかったが、聞かなければならない事を聞いた。

俺:「Uはどうなるんですか?俺は本当に大丈夫なんですか?」

Hさんは少し暗い表情で答えた。

Hさん:「正直Uさんは、ずっとあの山に禍垂に捕われたままになると思う。禍垂を祓えれば違うかもしれないけど、禍垂はまず見つからないし、祓う方が危ないから・・・」

Hさん:「あなたは恐らく大丈夫。でも決してあの山に絶対に近付いたら駄目。禍垂との縁が復縁したら、間違いなくあなたは助からないから」

俺は少しの安堵と、これから先報われる事のないUを気の毒に感じながら、Hさん宅を後にした

その後は、料金の支払いが終わり、それからはHさんには会わず、例の山にも決して近付いていません。
人間は好奇心が強く、興味を持ったら止まらない生き物だと思います。

決して不用意に噂が立つ場所には近付いてはいけないと思う。
思いもよらない結果があるかもしれませんから。

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