オレは九州の山奥で、砂防ダムをつくってる。
泣きたくなるような職場なんだが、おふくろは半分寝たきりだし、兄貴はちょっと頭がアレで、二人とも会社の寮にオレと住んでる。
辞めるに辞められない状況なんだわ。
一日十一時間働いて、休みは週一回。
月給十万八千円。
寮費が四万五千円抜かれて、昼飯が九千円天引き。
あと、管理費とかいう良くわからんのが、二万円取られている。
手元に残るのは三万ちょっと。
気晴らしといったら、月に二度くらい街に出て、漫画喫茶に寄るくらい。
交通費の方が高いけど、どうしようもない。
そんな職場だから、オレみたいに事情がある奴以外は逃げる。
人数分のメットすら用意してない会社だから、事故も多い。
たまに労災で死人も出るけど、問題にはならないみたい。
なんせ逃げるのが多いんで、「いなくなりました」で通っちゃうんだよな。
んで、先月なんだけど、その日はセメントの袋を開けてコンベアにぶちまける仕事を、一日中やらされてたんだ。
で、夕方に袋を開けると、セメントの中に厚手のでかい封筒が混ざってた。
そのセメントは系列会社の工場で作ってるんだよね。
終業した後、封筒を開けたら、ボロい布きれと手紙が入ってた。
文面は、こんなの。
『私はセメント工場で働いています。彼氏はクラッシャー(破砕機ね)へ石を入れる仕事でした。二月七日の朝、大きな石を入れる時、彼氏は石と一緒にクラッシャーの中へはまりました』
『作業着のすそをつかんで助けようとしたけど、彼氏は水におぼれるみたいに石の中に沈んでいって、砕けて赤い石になって、ベルトの上に落ちました。そのまま粉砕筒に運ばれてもっと細かく砕かれて、焼かれて、セメントになってしまいました』
『骨も、肉も、粉々になって、全部セメントになっちゃいました。残ったのは、ちぎれた作業着の切れ端だけです。事故でラインが止まったので、私は袋詰めの行程にまわされました。私は彼氏が混ざったセメントを袋に詰めています。それで、この封筒を一緒に入れました』
『メアドを書いておくので、連絡ください。このセメントは何に使われましたか?それが知りたいです。うちの社長みたいな、金持ちの家の壁とかに使われるなんてこと、ないですよね。それだけは嫌です。絶対許せない。そんなところにだけは使わないでください』
『まだ二十六歳で、やさしくて責任感が強い人でした。仕事はきついし給料は安くてボロボロだったけど、結婚する予定というか、できちゃったので、無理して働いていました。会社を辞めたいといってたのに、もう少しの我慢だからって、私が止めてました。辞めさせてあげれば良かったのに』
『もう貸衣装も予約していたのに、セメント袋を着せることになるなんて。彼は棺桶にすら入れずに、セメントになってしまいました。骨壺は会社が用意してくれたけど、中身はからっぽです。だから、寮の部屋にあった遺品だけ入れました』
『メールください。あの人のお墓になる場所を教えてください。代わりに、彼の作業着の切れ端をあげます。
あなたも用心してください。さようなら』
この手紙見て、本当に嫌になって逃げ出そうと思ったけど、おふくろと兄貴の件があるんで、まだそこで働いてる。
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