オカンが会社の同僚?から聞いたお話。
話者は男なんだが、二十年も前、二十歳そこらの時分には暴走族をやっていたそうだ。
オカンが会社の同僚?から聞いたお話。
話者は男なんだが、二十年も前、二十歳そこらの時分には暴走族をやっていたそうだ。
毎日、県下では難所として有名な峠道を、暴走族仲間と一緒に爆走していた。
ある日、その人の暴走族仲間の一人が事故を起こして死んだ。
その事故と言うのが妙なものだったそうで、カーブを曲がりきれなかったのか、
彼と彼が乗ったバイクは峠道の外に放り出され、あとはバイクごと谷深い山中へと消えていった。
一緒に走っていた仲間の通報ですぐさま警察がやってきたが、どういうわけか谷底から彼とバイクが見つからない。
数百人態勢での捜索活動が行われたが、結局彼の遺体もバイクも見つからなかった。
数日後、話者の男性が夜中、暴走仲間の男女四人と車でその峠道を通った。
しばらく経って、今までわいわい騒いでいた運転手の男性が急に押し黙った。
どうしたんだとみんなが言うと、運転手の男性が「何か聞こえないか?」と言って耳をすます仕草をした。
突然なんだと耳を澄ましてみると、後方から改造バイク特有の、唸るようなエンジン音が聞こえてきた。
「あいつのバイクの音だ」
暴走族だったこともあって、エンジン音を聞いてすぐに、そのエンジン音が事故を起こした彼のものだと気がついたそうだ。
すぐに、後方からバイクのライトが追いかけてきた。
そのヘッドライトは光が上下二股になっていた。
その改造も、やはり彼のバイクに施されていた改造だった。
車内は騒然となった。
遺体が見つからないとはいえ、場所が場所だ。
彼が死んだことは間違いない。
だったら後ろから追いかけてくるのは・・・・・・。
とにかく車を路肩に止めて、彼が来るのを待つことにした。
バイクの唸りがすぐ背後に来た。
ヘッドランプの光が車の横に来た。
物凄い唸り声を上げて、彼のバイクは車の横をすり抜けて行った。
テールランプが見えた瞬間、あ、と全員が声を上げた。
「車体がない」
そのバイクはヘッドランプとテールランプの光しか見えなかった。
ランプの光に照らし出されて浮かび上がるはずの車体も、搭乗者も、見えなかった。
体のないバイクは、そのまま峠道の向こうに消えていった。
彼の遺体も車体も、いまだに見つかっていない。
東北の某所、自殺の名所としても有名な峠道であったお話。