私が中学生の時まで住んでいた集合団地の近くに、空き家が一軒あった。
ただ、空き家と言っても人が住める様な状態ではなく、家財道具などがひどく散乱したまま放置され、外壁も半壊した、ほとんど廃墟の様な建物だったので、道側からでも内部が丸見えだった。
私の学校-自宅までの行き帰りには、少し時間を短縮できる近道があって、ある時までずっとそこを使っていた。
空き家は近道を通る時には必ず目にする場所だった。
ある日、夕暮れ時にその道を一人で通っていた時、何気なく空き家を見ると中に人影があった。
反射的に立ち止まって見てみると、その人物は子供用のおもちゃの小さなピアノ(?)の前に正座しており、鍵盤らしき部分に両指を乗せ、まるで演奏している様なポーズを取っていた。
しかし指や腕を動かしたりして実際に演奏するという訳でもなく、その姿勢のまま固まっていて、首をがっくりと前にうなだれさせて俯き、全く動く事なくそこにいた。
表情は見えなかったが、スーツの様な服を着た男の人だった気がする。
何だかすごく不気味に思えて、急いで走って家に帰った。
その奇妙な人影は結局、卒業までに3回見た。
2回目に見た時は友人と一緒だったが、友人も私も怖がりなので声をかけたりなど到底できず、逃げる様にすぐその場を離れた。
3回目、最後にそれを見た時は、同じポーズの人がもう1人増えていた。
髪型はセミロングの20代くらいの若そうな女の人で、やはり正座して、おもちゃのピアノの鍵盤に両指を乗せ、微動だにせず深く俯いている。
前述のスーツの人の隣で・・・。
その後はもう空き家を見るのも嫌になって、引っ越すまで二度と例の近道を使わなかったので、あれが生きている人物だったのか幽霊的なものだったのか、何もかも分からない。
でも、とにかく、もう二度とあんな不気味な物は見たくない・・・。