※このお話は『雨の日が悲しい(その1)』の続きです。
家へ帰ってからしばらくしてなんだけど、雨の日。
そう、雨の日。
気がつくとね、家中に水溜りが出来てたの・・・。
夜ベッドから起きようとして足突っ込んじゃった時はすっごい声で叫んだよぅ・・・。
だっていきなりびちゃっ!って足が冷たいものを踏んだの、嫌でしょ!?怖いよねぇ!?
夜にあの水滴が落ちるような奇妙な音がするし、家中水溜まりだらけになるし私困っちゃった。
今までなんともなかったのに。
雨漏りじゃないの、外は雨だったけど絶対に濡れない場所が濡れてるんだもん。
天井は何もないのに何で床に水溜まりが出来てるの?
私の枕が何でそんなに濡れてるの?
テーブルの下にどうしてそんな大きな水溜りが出来てるの!?
・・・って物凄く、動揺した。
勿論水道の故障でもない、私が何か零したわけでもないし。
酷いの。
カーペットも布団も椅子もピアノも濡れてるんだよ。
拭いても拭いても・・・終わらなくて。
雨の日っていったけど、絶対に雨漏りや湿気が原因じゃない。
一階のホールとか、寝室とか、絶対に雨なんか入り込まない場所でも濡れてるんだもの。
足跡に水溜りが沢山。
カーペットはびちゃびちゃ。
濡れた誰かが歩き回ってるとしか思えない。
あの村に行った時から何かがおかしいの・・・。
私も不本意なんだけど、雨の日は家中の掃除をするのが普通になってた。
私、思ったの。
きっと何らかの事情で私にその二人がついて来ちゃったんだって。
私も女の子だから・・・憎い仇の娘さんじゃないかと探しに来たのかな。
どんなに探してももう憎い仇はこの世にいないのに。
あまりにもお墓に近付きすぎたから?
それとも私がその村長の娘さんに似ていたのかな?
まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。
でも・・・私の家に居るのは間違いない。
きっとあの村から連れてきちゃったの。
雨の日は憂鬱だった。
家中のお掃除と水滴を綺麗にとる仕事は大変だもの。
ごめんねぇ・・・。
前に妹が怒ったことがあった、「なんで姉さんが家に来ると、そこらじゅうが濡れるんだ?掃除が大変なのに」って。
お姉ちゃんじゃないのよ・・・。
ごめんね・・・。
私の後をついて来てるのね、きっと。
そうゆうのって、共感してくれた人や、思ってくれてる人の所について来ちゃうことがあるんですって。
私があまりにもお墓の前で色々聞いたからからかなあ?
無闇に聞くものじゃないよ、本当に。
でも・・・もう慣れちゃった。
床は濡れたら拭けばいいし、晴れた日には気にならいわ、私は気にしないようにしてる、これが生活の一部であり、私の雨の日の過ごし方。
少し大変だけど。
寝てると雨漏りしてもいない天井からピチョン、って水滴が顔に落ちてきたりもするのは少し困っちゃうけど・・・でも慣れたから大丈夫。
あ、夜中にガラス窓をふと見たらね。
私の後ろに女の子の姿がちらっと見えたことがあったの。
髪の長いずぶ濡れの、女の子。
でも酷く恨めしそうな顔で睨んでいたよ、気持ちは痛いほど分かるけどどうしようもないでしょう?
そんな感じでしばらくたったある日。
夜中に目が覚めたの。
その日は何でだかパチ、と冴えちゃって。
雨の音がしたからああ、またお掃除かなーって思って目を開いたら。
ベッドを取り囲むようにして女の子が二人、私の顔を覗き込んでたの。
ずぶ濡れで、髪の長い女の子。
一人は栗色のウェーブのかかった髪、もう一人は金髪のお下げ髪。
仲良く手を繋いでいたよ。
顔色は酷く悪くてね、髪の毛の間からこっちを見てる目は見開いたまま瞬きしていない。
不気味で恐ろしい顔・・・。
生臭いような臭いまで漂ってて・・・。
ポタポタ二人の髪から垂れる水滴が私の顔にまでかかって怖かったし冷たかった。
え、何!?って思ったけど。
「ごめんね助けてあげられなくて。でも、分かって!いつまでもこの世に居たって何にもならないんだよ。貴方達の気持ちは分かる、憎いし悔しかったのよね?悲しかったのよね?お願い、許してあげて?早く次の世界へ行ったほうがいいよ、そこは寒いでしょう?悲しいでしょう?天国へ行ったらきっと楽しいよ、生まれ変わったらもっと楽しいよ・・・恨むより許してあげて!」
私はこう心の中で呼びかけたの。
すると二人は顔を見合わせた。
私、その時も泣いちゃった。
怖かったって言うより、彷徨い続けるのが可哀相になって。
そしてしばらくしたら、少しだけ優しい表情になってね、私の思い込みかもだけど・・・。
で、二人はスッと消えてくれたの。
二人が居た後には水溜りが残っていたけど、姿は跡形もなく消えてた。
悲しい悲劇は、繰り返してはいけないよね。
どうか来世では、幸せになってるといいなぁ・・・。
ん?
今でも雨の日にはお掃除するよ?
え、だって・・・あちこち水溜りだらけなんだもの。
・・・・・・え?うん。
その栗毛と金髪お下げの二人はもう居ないよ?あれ以来見かけないし。
でも・・・。
前に言ったでしょ、ガラス窓に写った女の子。
あれ、よく考えたら私の見た二人の女の子のどちらでもなかったんだよ、私すっかり忘れてて・・・えへ。
そこでふと勘違いに気がついたの。
今思えば水溜りも足跡も、妙に多かった気がするし、村に張ってあったお札も、あれって魔除けじゃなくて中にある何かを封じ込める意味合いの札だったようだし・・・。
何よりインターネットで調べたらそこは有名な心霊スポットになってた。
何十年も前から廃村になったまま、幽霊が出るって有名な・・・ね。
私が連れてきたのは姉妹じゃなくて。
村人達の方だったのね・・・・・・って。
あの二人も、ガラスに写った子も、例の姉妹じゃない。
妹に殺された・・・村の女の子達なの・・・。
そう、言ったでしょ。
そういうのは共感してくれる人の所へついて来ちゃうって。
無闇に他の地へ行って涙なんか流したりしたらダメ。
調べても私が滞在した村自体もう存在していなかった、・・・私はあの時いったいどこに・・・居たんだろうね。
家や村の周りに貼ってあったお札は・・・村全体を封じ込める為に他所の誰かが貼ったものだったんだよ。
惨劇により彷徨っている村人達が・・・あそこにはいっぱい・・・可哀相な人達が居たんだねぇ。
村やお墓を私掃除してきたけど、もしかしてお札を間違って剥がしちゃったのかも・・・。
怖いね、怖いよね!!
あ、でも。
その後見た夢の方が怖いな。
何故かあの村に居る夢を見たの・・・。
あの姉妹が幸せそうに暮らしてた。
家にいる村人の誰かが私に見せようとしてたのかな、事件の真実を・・・・・・。
平和な村の風景、どこか懐かしい時代。
慎ましく生きる姉妹が居たよ。
だけど姉が病に倒れ、妹は必死で看病してた・・・けれど次第に村全体が二人に冷たくするの。
私はそれをずっと見ていた、その子達の側で。
ヘンな夢、私が幽霊みたいにそこに立ってそこで起こることを見てるの。
お姉さんの病気は治らないものではないけど、薬代が凄くかかかるとお医者さんから言われた。
妹は街へ行くんだけど、お金がなくて・・・追い返されちゃうのね。
村の人へ頼むんだけど、貧しいからそんな余裕なんかなくて断られちゃうの。
姉妹は絶望して悲しむのよ・・・。
ある雨の日の夜、・・・村長さんの家に黒いマントを被った泥棒が入った。
金庫が開けられ、物音に気付いた村長さんはそれを見てしまい泥棒を捕まえようとしたの。
けれど振り向いた泥棒は鎌を持っててそれで村長さんを切りつけたわ・・・。
その泥棒の顔がランタンに照らされた・・・・・・それはあの妹の顔だったの!!!
・・・・・・お姉さんの薬代が欲しかったのかな・・・・・・。
口の聞けない彼女の言葉はアイコンタクトだけ。
それはお姉さんにだけ分かった。
きっとお姉さんは全てを知っていたけれど、妹を生かそうと一人罪を被ったんだね・・・きっとそこまで愛していたから。
妹の行動は・・・逆恨み。
お姉さんが居なくなった時から、おかしくなってしまったのかもね。
いいえ、村の人達も勿論悪いわ。
話もロクに聞かず犯人に吊るし上げたりなんかして。
でも・・・結局みんな可哀相なの。
・・・・・・何が真実かなんて、この目で見ないと分からないことって多いんだね。
雨の日は、憂鬱になるよ。
ピチャ、っていう水音も嫌いだよ・・・。
家の中で確実に誰かが歩き回ってる音だもの。
今でも、私のお家は村人達の足跡と水溜りで掃除が大変だもの・・・・・・・・・。
最近気になるのは客室の前の廊下!廊下の床がね・・・湿気のせいで凹んでるの・・・小まめに拭くようにはしてるけど。
あそこを歩かないように頼めないかなぁ?村の人達に。
お家直したいけどそんなお金ないものね・・・。
あ、あともう一個気になったことといえば。
あの姉妹はまだあの村に居るんだろうなってこと・・・・・・・・・。
何の解決もされてないまま、これからも、ずっと村の隣で彷徨い続けるのかなぁ・・・・・・。
村人達は、死して尚姉妹に怯え憎みあいながら彷徨うのかしら。
・・・って凄く心配になったけど。
雨の夜、寝室の窓から外を眺めるとね。
時々大きな斧を持ったずぶ濡れの女の子が見える気がしてたんだ、後ろには似たような感じの女の子がもう一人。
前はもっと遠くに見えていたんだけどね。
そのうち顔が分かるくらいまで見えるようになったよ、だんだんと近づいて来てたのね。
あれが本当の例の姉妹だと思う。
銀髪の凄い美人さんなんだよ。
ついにすぐそこに来た時、私は恐怖心よりやっと会えたねって気持ちになっちゃって。
「大丈夫?辛かったね、苦しかったね・・・もういいんだよ?恨まなくて。お姉さん、悲しまないで。妹ちゃん・・・皆を許して、もう恨み続けるのは疲れるでしょう?お姉さんの為にもいつまでも過去に縛られないで好きにしていいんだよ、どうかもう幸せになって・・・!!」
そう心で語りかけた。
言わずには居られなかった、二人の怖いほど落ち窪んだ目から流れる水滴が、泣いているように見えたから。
二人は雨に溶ける様に消えたよ。
良かった!分かってくれたんだね、これで本物の姉妹も救えた!!って嬉しかった。
・・・知らない土地で、余計なことをしちゃダメって勉強になったわ。
貴方達も、気をつけてね。
もし水で困ったら私に聞いて、良いお掃除の仕方、教えてあげるよ。
・・・ああ、私の家のお掃除ね。
何でだか最近水溜りに赤い血がまじってるんだ・・・・・・夜中に悲鳴みたいなのも聞こえるし・・・何なんだろうね。
そういえば姉妹も私のことをわざわざ探して来てくれたのかなぁ?
惨劇や悲劇はもう起こらないといいね・・・・・・・・・。
私はそれを願うばかりだよ・・・。