ある会社に勤める一人の女性社員は度々勤務中に幽霊を目撃した。
しかし、周りの人間には見えていないらしく、一人悩む日々が続いた。
ある日、一人の男性が新しく配属された。
男性がその女性と一緒に作業をしていた時、男性はふと物陰に乳母車を引く老婆の様を姿を見る。
不思議に思い男性は女性社員に尋ねた。
すると女性は顔を強張らせ足早にその部屋を出て行ってしまった。
その後、その場(老婆を見た場所)へ行くと何やら黒っぽいカスのような物が床に落ちていた・・・。
それから、その日を境に男性は度々その老婆の姿を目撃するようになる。
勤務中にかすかに聞こえる乳母車の車輪の音が気になり、外へ出るも誰もいない。
ふと足元を見ると例の黒いカスのような物が落ちている。
不安になり例の女性にその事を話したら、彼女の表情は暗くなった。
やがて女性は会社を辞めてしまった。
そんなある日、男性は一人で残業をすることになった。
外は真っ暗だ。
男性は乳母車の老婆が気になって仕方が無い。
その時、静寂の中からあの乳母車を引く音が..。
彼は怖くなり外へ出て確認した。
「掃除のおばちゃん?」
彼の呼びかけは虚しく廊下に響き渡り老婆は乳母車を引いて角へ消えていった。
男性は恐る恐る廊下の角まで行き角を曲がった。
するとそこには乳母車を引いてこちらへ向かってくる老婆がいた。
男性は怖くなり慌てて階段を駆け下りる!
そして角を曲がろうとした時男性は絶句した。
そこにはいる筈も無い老婆がこちらへ乳母車を引いて向かっている。
男性は再び階段を駆け上りトイレへ駆け込んだ!
3つある個室の一番奥へ入り鍵を閉め息を殺して耳を澄ます。
すると乳母車を引く音がだんだんと自分のいるトイレへ近付いて来るではないか。
「通り過ぎてくれ・・・」
男性の祈りも通じず、乳母車の音はまさにトイレの入り口で止まった。
そしてドアを開けて乳母車を引いて中へ入ってくる。
手前から順番に個室のドアをドスンッっと大きな音を立てて開く。
2番目の個室、そして最後に男性の入っている個室のすぐ目の前まで乳母車の老婆が来た。
激しく鍵の部分をガチャガチャとする音に男性は恐怖のあまりお守りを握りながら耳を手で押さえ必死に祈った。
やがて急に辺りが静まり返って老婆の気配が無くなった。
男性はホッと安堵のため息を漏らし天井を向いた。
そこには・・・。
なんとそこには、個室の上から老婆が自分をジッと見ているではないか。
男性は卒倒してしまい、数日は寝込んでしまったとのこと。