大学帰り。
家の最寄り駅付近にケーキ屋があって、俺は週に一度そこで妹にケーキ買って帰るのが日課なんだけど、今週の月曜の夜もそこでケーキ買ってたんだ。
毎週来るから店のおじさんとは顔見知りで、いつもみたいに店に入りながら軽く「こんちはー」って挨拶したら、「買い忘れか?」って言われて「え?」って返したら、「さっき、みいちゃん(妹)と一緒に買いに来ただろ?」
俺:「は?」
意味がわからなくて聞き返したら、おじさん曰く、20分くらい前に、俺が十歳下の妹と手を繋いでケーキを二つ買っていったらしい。
俺はそんな記憶は無いし、何より20分前は電車の中だった。
俺:「え、どういう事っすか?俺、今帰りで・・・駅から真っ直ぐここに来たんですけど・・・」
するとおじさんは笑って「いやいや。確かに俺君はここに来たよ」と言って、続けてありえないことを言った。
おじさん:「さっきの話だけど、俺君も大変だねえ。試験二つ落としてさ・・・」
夜遊びのしすぎは良くねえよ?と付け加えるおじさんには悪いが、俺は背筋が凍った。
確かに俺は試験に二つ落ちて、追試を言い渡されていたが、その試験の成績発表は今日。
さらに言うならば、俺は大学でぼっちだから誰にもそのことは喋ってない。
だから俺以外の人間がそれを知るはずないのだ。
流石に気味悪くなり、その日はケーキを買わずにそのまま家へ直帰。
玄関には妹の靴。
なんだ、ちゃんと帰ってきてるじゃないか・・・と思いながらリビングに向かう。
すると妹がケーキを頬張ってるのが見えたので、ちょうどいいからケーキ屋での事を聞こうと考えて、ふと違和感に気づいた。
妹が頬張っているケーキの隣に、もう一つケーキがある・・・。
二つ目のケーキを見ていると、生クリームをほっぺにつけてキョトンとしてる妹と目が合った。
妹:「あれ・・・?お兄ちゃ、おトイレ行ってたのに、どうして玄関の方から来たの??手品?」
むぐむぐとケーキを食べる妹が言った言葉に冷や汗が出た。
え、何それ怖い。
そんなこと思ってると、母が買い物から帰ってきた。
ちなみに家は玄関→リビングorキッチン→トイレor風呂って感じで、奥に縦長の作りになっている。
リビングはトイレへの通り道みたいになっていて、廊下らしい廊下は二階へ続く階段と二階しかない。
だから、トイレへ行ってたという俺が玄関から現れるワケない。
内心ちょっとかなりビビりながら、買い物袋を下げて「今日は魚が安かったのー」と言ってニコニコ顔の母に、ケーキ屋から今あったことを伝えると、母は笑顔を消して寂しそうに笑った。
母:「そうなの・・・やっぱり俺君と一緒で妹想いなのね」
俺が「え?」と聞き返す俺に、しんみりとした悲しそうな声で「食事の後で話すわ」と言う母。
そして仕事から帰ってきた父と4人で食事をしてから、その話を改めてすると、父と母はお互いを見て何ともとれない顔をして、父が妹に「どこでお兄ちゃんと一緒になった」と聞くと、妹が嬉しそうな顔で、「学校帰りにM(妹)が転びそうになったの助けてくれたの!」と。
それから手を繋いで一緒に公園に行ったりして遊んで、四葉のクローバくれたとも言った。
それを聞いた瞬間、今まで笑顔だった母が泣きだした。
それに妹はおろおろとしていたが、それは悲しみというより嬉し泣きのようで、「どうしたのさ?」と聞くと、母は涙声で俺に言った。
母:「実はね、貴方は双子だったの。難産で、一人流れてしまったけど・・・」
それを聞いた瞬間、ああ・・・そういうことか。と何故か納得がいった。
どうやら俺の弟は、おっちょこちょいで危なっかしい妹が心配で、天国から降りてきて助けてくれたんじゃないか?とのこと。
妹が貰った四葉のクローバー。
流れた弟が眠る洋風の墓に三つ葉の群集があって、母が生きて産めなかったことを悔やんで、探してよくお供えしたらしい。
俺、幽霊とか全く信じてなかったんだが、この時ばかりは信じざるを得なかった。
ついでに、四葉のクローバーは幸福をもたらす意味があるらしい。
なんだか俺が勝手に、ド、ドッペルだったらどうしよう俺死んじゃうの!?とか思っててごめん・・・と罪悪感が生まれた。