お前、財布忘れてるぞ

カテゴリー「不思議体験」

もうずいぶん前の話。
親父が亡くなって間もなかったころの話。
先に書くがオチはないよ。

ある日曜日、仕事が捌き切れないままに午後から出社。
シーンとした事務所内で仕事を片づけていた。
会社は工場だったが、その日は交代勤務もない完全休業日だった。
途中、便意を催したんで便所(和式の大)へ。
その際、便器に落とさないようにいつも右のケツポケットに入れている札入れを用水タンクの上に置いて用を足した。

事後、再び事務所内へ戻り仕事を再開。
日曜日なだけにあって邪魔もなく、しばらくは集中できた。
そこへ突然、電話(事務所内の固定電話)に入電。
それも自分の所属する部署内の電話はもちろん、書類棚で境界しただけの隣の営業部(だから音は丸聞こえ)の電話も、全て鳴っているらしいほどのけたたましい(というか大合唱)呼び出し音。
それまで日曜日の事務書でシーンとしていただけに、聞こえる範囲の電話の合唱にめちゃくちゃビビった。

ビビりながらも電話に出なきゃとリーマン本能的に、最寄りの電話機の受話器を取ろうしてまたビビる。
当時の会社では部門ごとに複数の回線を持ってて、営業部は○○番~○○番、技術部は○○番、総務部は○○番、購買部は○○番と割り当てられていた。
入電があると呼び出し音と共に、その割り当て番号を登録した回線キーがが光って、
何番の回線に入電があったか目でも分かるようになってた。

呼び出し中はその回線登録キーが点滅しているんだが、その時の入電では20~30個(記憶曖昧)あった回線登録キーが全部光っていた。
つまり、今自分がいる部署ととなりの営業部の電話機の呼び出し音が聞こえるのはもちろん、音が直接には聞こえない他部署の電話の全て(会社中の全て)の回線に一度に入電していた事になる。
盤面が正しけりゃ。

誰もいない日曜日の工場事務所で、聞こえる範囲にある電話機が全て鳴り、電話の盤面は全ての回線に入電があるかのように明滅する。
めちゃくちゃビビりながらもそれでも受話器をとり、応答しようとすると、受話器からは何の事はない信号音(ツー、ツー、ツーってやつ)。
よくわからないながら、なんかドキドキしながら、受話器を置いた。

その途端、「あ!財布忘れた!」と、やにわ思い出して、慌てて便所へ。
さっき便所に行った時に財布を用水タンクの上に置いたままだった。

その日は先にも書いた通り、日曜日で事務所には誰もおらず、慌てながらも大丈夫と思っていたんだが、便所の当該個室に財布はなかった。
散々探した(生活かかってた)が結局見つからず、現金数万とキャッシュカード(クレジットカードはその頃は持ってなかった)やら領収書やら、写真やらその他をなくすことになった。

なんか気味が悪くなったんで帰る事にした。
警備会社からのお雇い守衛さん(年配だったけど人のよい人で、仲も良かった)がいる守衛室に鍵を返しに行ったついてに、電話の点検やメンテなんかがあったが聞いてみたけど、「ないよ」とのんきな答え。
平静を装いながら、その他の人の出入り(その日、俺は財布も便所でなくしてる(=持って行かれてるので))についても確認したが、一切なしとのこと。

要するにあれは、亡くなったばかりの親父が「お前、財布忘れてるぞ」と教えてくれようとしたんだが、父ちゃん、もうちょい早く知らせてくれよorz

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