まだ小学生のころ、母方の祖父の弟が死んだ時の事。
俺は葬式のために、祖父に連れられて祖父の実家まで行くことになった。
忙しかった母親の代わりだったようだ。
家に着いてしばらく経って、親戚と話している祖父を眺めているのにも飽きたので、遺体を見に行くことにした。
寝室に寝かせてあると聞いていたので一人でも迷わなかった。
ところが部屋に入ろうとしたとき、他にも誰かいることに気付いた。
襖の陰から覗いてみると、それは自分と同じくらいの女の子だった。
女の子は赤と白の服を着ていて、どう見ても今からお通夜という格好ではなかったし、それに親戚の中でチビは俺だけだったから、何とも怪しい子だと思った。
女の子は俺が覗いていることに気付いていないようで、遺体をじっとりと見つめていたが、やがて服のポケットから何かを取り出した。
よく見ると、ジャムの入っていたような透明な瓶だった。
そして、彼女は躊躇いもせずにそれを遺体の顔の上に落とした。
ゴン、という鈍い音がした。
瓶は割れて、破片が枕元に飛び散った。
数秒あけて、枕に血が滴り始めた。
その血は遺体から出ているのではなく、瓶の割れ目から出ているように見えた。
呆然と眺めていると、女の子はやっと俺に気付いたようで、こちらに目を向けてきた。
その目が凄く黒くて、何だか怖かった。
しばらくして、帰りが遅いので探しに来た祖父に声をかけられ、俺は我に帰った。
もう一度部屋を覗いてみたものの、女の子どころか血さえ残っていなかった。
十年ほど経って、今度は祖父が亡くなった。
そして女の子はまた現れた。
吸い込まれそうな不気味な瞳も、十年前と変わっていなかった。
祖父の弟にしたことを、そのまま祖父の遺体にもやって見せた。
まるでデジャブのようだった。
しかし、今度は瓶が割れなかった。
祖父の頭にぶつかった瓶は、そのままゴロゴロと部屋の隅まで転がっていった。
祖父と祖父の弟に何の違いがあったのか分からないけども、彼女の黒い瞳だけはずっと忘れることが出来ない。