昨年の9月、営業でインドのアグラの河川拡張工事の打ち合わせに行った時のこと。
一日目の夜、次の日から始まる商談の為の資料を確認した後、寝る前のトイレをすませベッドに入ったのは、午前1時頃でした。
寝付けない時間を過ごし、やっとウトウトしてきた時、気が付くと既に金縛りに掛かっていました。
珍しく、全身に一気に力を込めても抜け出すことが出来ず、何度も繰り返しりきんでいると、入り口から何かが入って来るのが視界の隅に見えました。
よもや3星ホテルの6階に野犬や野良牛が入って来る筈が無く、怖いながらも見ていると、ちらり、ちらりと入り口近くの常夜灯に姿が照らし出される。
どうも入り口と私の足元を往復している様です。
何度も何度も行き来を繰り返し、私も少し動揺が収まりかけたとき、『それ』は両手を差し伸べ片言の英語で言いました。
「なにか・・・たべるもの・・・くれ」と。
私は、ビカーリー(乞食)?と思いましたが、金縛りで話せません。
しかし『それ』は、「こじき・・・ちがう・・・それ・・・たべる」と答え、こちらに向かって来ます。
やばいと思い強く目を瞑りました。
近付いてきた『それ』は、ベッド脇のテーブルに置いてある夜食の残りを食べ始めました。
不快な音を立てながら食事をし、やがて食べ終わると、しっかり目を瞑った私の頬を両手で優しく包み、「・・ありがと・・」と言いました。
予想外の行動に驚き目を開けると、ブリッジをした状態の全裸の男が、無理な体勢で私の頬を手で包んでいました。
濃い髭と食べかすの付いた逆さまになった顔でニカッと笑い、入り口に向かって行きスッーと消えました。
広がった彼の体臭が酷く匂い、恐怖もあり朝まで眠れませんでした。
翌朝、ホテルのマネージャーに別な部屋を頼むと、「あの部屋は、神様のいる良い部屋ですよ、変えない方が良い」と断られました。
私は見た物を伝え、「神様?あれが何の神様だと言うのですか?」と聞くと、マネージャーは「結婚の神様です」との事。
妻と3人の子持ちの私に結婚の神様は無用です。
更に、、脂ぎった全裸のブリッジ男が神様とは思えず、その日の夜から別なホテルに泊まり、商談成立後に帰国しました。
いま思えば、客に図面と計算書を渡すと、入札後にも拘らずすぐにワイロをばら撒き、「半額で」と言いながら仕事を盗んでゆく隣国の●●●建設を退け契約出来たのは、彼のおかげかも知れません。