仕事の関係で、道の駅に品物を卸している方々と親しくさせてもらっていた時期があった。
野菜や果物を卸す農家さんばかりでなく、山で採れた山菜や茸を卸している人もいたし、民芸品を作って卸している人もいた。
これは山菜と竹細工を卸していたMというおじいさんから聞いた話だ。
Mさん夫妻は竹細工を作るのが昔からの趣味だった。
ざるやかご、置物などを作っては近所の人にプレゼントしていたのだが、知人に勧められて道の駅にも品物を卸すようになった。
裏山から切り出した竹は二三カ月ほど陰干ししてから巨大な鍋で煮て下処理をするのだが、Mさんは切り出した直後に鍋サイズに切り分けてから干していた。
ある時、その切り分け作業をしていると、妙に重い竹があった。
持つ場所を変えたり回したりしてみると、ひとつの節にやたらと重みが集中しているのが分かった。
中に雨水でも溜まっているのかと思い、Mさんはノコギリでその節の端を切り始めた。
案の定、切り口からは液体が垂れ始めたのだが、雨水にしてはやたらと粘っこい感じがした。
何だか薄いハチミツみたいだな、と思いながら節を完全に切り落とすと、中にはつるんとした丸っこいピンク色の物体が詰まっていた。
左手の上に切り口を向けて軽く振ると、粘液にまみれているおかげでそれは抵抗もなくつるりと出てきて、手のひらに落ちた。
「なんじゃこりゃ」
手のひらの上の物体を見て、Mさんは頭をひねった。
大きさはおはぎくらいで、勾玉のような形をした本体部分から短い手足が生えている。
表面は半透明なピンク色で、勾玉の穴にあたる部分には皮膚の下の目が透けて見えていた。
どう見ても、それは何かの胎児だった。
気味が悪いと思いながらも矯めつ眇めつ見ていると、突然ピクリとそれの左手が動いた。
驚いたMさんは「うわあ!」と声を上げながら、思わずそれを放り投げてしまった。
べちゃりと嫌な音を立てて、それは土の上に落ちた。
いかん、と思って慌てて拾おうとしたMさんだったが、異変に気付いて手を止めた。
それは土の上に水分を染み出させながら、見る間に潰れていった。
広がっていく水たまりの中、薄い皮の中に黒い眼球が二つ入っているだけの状態になり、その眼球も水分を放出して、最後はぺったんこの皮だけになった。
溢れた水分を土が吸収していく中、残った皮も溶け始め、最後には土の上に濡れた黒いシミだけを残して跡形もなく消えてしまったのだという。
「あれはかぐや姫ですよ、骨なしのかぐや姫。もうちょっと育つまで置いといてやったら、ちゃんとしたかぐや姫になったかもしれませんがねぇ」
Mさんはそう言って笑ったが、多分それはそんなかわいらしいものにはならないだろうと俺は思った。