中学校の頃、頭の出来の悪かった俺は、クラスの馬鹿なダチ数人と一緒に、夏休みにもかかわらず、補習授業に参加させられていた。
セミがやたらとうるさかったある8月の補習日。
英語の補習を受けていると、先生がしゃべる英語に混ざって何か別の声が混ざっていることに気付いた。
「~しぃ!」
こんな声が俺の背後からわずかに響いている。
俺が座っていた席は一番後ろの席で、声の方へ振り返ってみると、ロッカー、黒板以外には何も無く、ましてや人の気配などみじんにも感じない。
きょろきょろと背後を見渡していたら、「授業中にどこを見ているんだ」と先生に怒られてしまい、周りのダチ数人は、それを見て笑っていた。
再び先生が話し出すと、「~しぃ!」また例の声がする。
俺は、ダチがグルになっていたずらをしているのか?と思い込み、「おいお前ら黙れよ!」と声を上げたが、逆に先生に、「お前が黙れ」と再び怒られた。
休憩時間になって、ダチに聞いてみても、誰もそんな声は出していないという。
次の時間の補習は、演習形式だったので、先生の説明も少なく、鉛筆が文字を刻むカリカリという音が、静かに響き渡る授業だった。
30分ほど過ぎると、再びあの声がする。
今度はさっきよりも少しはっきり「~としぃ!」と聞こえる。
後ろを振り返ってみても、やはり誰の気配もない。
また先生に怒られると思い、前に向き直ろうとすると、今回は隣の奴も聞こえたらしく、俺と同じように後ろを振り返っていた。
2人して首をかしげ、前に向き直って、問題を解いていると、声は二度としなくなった。しかし、もう聞こえないのかと思ったと授業終了直前、「さとしぃ!」と、かなり大きな声がして、その周りにいたダチが一斉に振り返った。
それどころか、一緒に補習を受けていた他クラスの奴も含め、後ろの席で固まっていた7~8人全員が、一斉に振り返った。
俺は、声の主がやっと分かった。
ああお前だったのか、と俺(さとし)は一年ほど前に、病気で亡くなった友人を思い出していた。
「たかひろぉ!」声を返してみると、あいつの声はしなくなった。