知り合いの話。
彼が小さい頃、村外れの山に小さな沼があった。
普段からそこで遊んではいけないと、しつこく注意されていたという。
ある時、その沼で子どもが溺れたことがあった。
幸い通りがかった大人に助けられたのだが、助けられた子は奇妙なことを口にした。
沼の近くを歩いていると、誰かに名前を呼ばれた。
見てみると、沼の上に綺麗な女性がいて、自分を手招きをしていた。
気がついたら溺れていて、おじさんに助けてもらったのだと。
助けた男性が、これまた不気味なことを言う。
溺れている子を抱きかかえた時、濁った水中で彼の足をつかんでいる者がいた。
必死でその手を引き剥がし、岸に向かったのだと。
前々からその沼では子どもの水難事故が多発しており、これはもう埋めてしまおうということに決まったのだという。
いざ埋め立てる当日になって、集まった男衆は皆驚いた。
沼が一晩のうちに枯れてなくなっていたのだ・・・。
濁った黒い水が、底の方にわずかばかり残されていた。
現在、沼のあった場所は現在は土が入れられて草むらとなっている。
ひょっとしたら、あの沼は今でもどこかの山の中で、誰か通りがかるのを待っているのかもしれない。
村ではそう言われているのだそうだ。