高校生の時の体験談。
『きさらぎ駅』に行った話。
別の市にある友達の家に行った、帰りの電車だった。
それまでバスと自家用車が主な交通手段で、ほぼ電車は初めてだった。
でも、行きの電車がきちんと乗れた(乗り換えとかは無い)から、帰りは多少安心してた。
電車の中ではガラケーいじってた。
トンネルを抜けて、海沿いの道を進んでたんだけど、気付くとまわりが薄暗い。
まだ夏の5時過ぎだったから、こんなに早く暗くなるか?と思いながら、車窓を覗くと、景色が薄暗かった。
風景に黒いセロファンをかぶせたみたいな感じ。
周りを見回すと、電車内には私以外に7人の人がいたんだけど、みんな顔を伏せて寝てた。
みんな同じポーズで、電車のわずかな振動に合わせて頭が揺れてる。
ちょっと怖くなってたら、親からメールがきた。
『いまどのへん?◯◯(最寄り駅)には6時までに着きそう?』
親に6時に駅に迎えに来てってお願いしてたから、その確認メールだった。
とりあえず周りの人が変なのを伝えようと返信。
『5時50分に着くように電車乗ったよ。でも周りの人がなんか変。みんな同じ格好で寝よる。あと、景色が見たことない暗さしとる』
親からは、『きちんと降りんさんいよ。周りが変ってどういうこと?みんな疲れとるんじゃない?あと、まだこっちは暗くないよ。あんた寝よるん?(笑)』的なメールがきた。
寝てるのにメールが書けるか。
そのメールになんて返信したら状態が伝わるか考えてたら、電車がゆっくり、大きく揺れて停まった。
駅についたみたいで、アナウンスは無かったけど、ドアがプシューって音をたてて開いた。
周りの人は相変わらずで、気味悪くて車窓からもう一度外をみた。
奥にふっるい木造の駅舎があって、その手前に看板があった。
駅名が『きさらぎ』駅と書いてあった。
聞いたことない駅だと思って、首をかしげたんだけど次の瞬間、ゾッとした。
『きさらぎ』駅の次の駅名が『ねのくに』駅だった。
私、島根県民。
現場も島根県。
小さい頃から絵本やら神楽やらで神話は割りと慣れ親しんだものだった。
それで『ねのくに』→『根国』じゃないかと思った。
島根県の教育よありがとう。
根国っていうのは『行き来は出来るけれどこの世ではない異界』のこと。
根之固洲國とか、底根國ともいうみたいね。
とにかく、生きてる人間が来るとしたら良くない駅だっていうのだけはわかった。
雰囲気も素敵だとは言い難い。
どうしよう。
降りるべき?
親に相談する?
電話とか?
って思ってたんだけど、どこか冷静で、電車で電話したら駄目だとか思ってるうちに、ドアが閉じて電車が出発してしまった。
ちなみに、きさらぎ駅の前の駅は『たそがれ』駅だった。
黄昏駅なのかな。
つまり駅は『たそがれ→きさらぎ→ねのくに』の順番ね。
どうにかしないとと思いながら、とにかく親に説明のメールを打ってた。
そしたら、子供の声がした。
びっくりして声の方をみたら、電車に乗ってた親子連れの子供が親御さんに話しかけてた。
っていうか、起きてた。
「え?」ってなって、周りを見回したら、寝てたはずの人達7人全員起きてた。
車窓からの景色も、薄暗さが消えていて、混乱してる私を他所に、それから5分もしないうちに最寄り駅についた。
親が怒ってたので理由を聞いたら、時計を見せられた。
6時20分くらいになってた。
迎えは6時の約束だったから、だいぶオーバーしててそれで親は怒ってた。
理由を言おうかと考えたんだけど、意味不明に聞こえそうなことを言っても火に油を注ぐだけだと思って、遅れてごめんなさいと謝った。
それで親に家まで連れて帰って貰って、体験自体は終わり。
納得いかなくて、あとから同じ電車に乗ったんだけど、きさらぎ駅もたそがれ駅もねのくに駅も無かった。
ちょっと調べてみても、島根にそれっぽい駅はない。
私が電車で寝てたのかもとも思ったけど、親とやり取りしたメールは残ってた。
ただ、メールはガラケーからスマホに代えるとき気味悪くて消去した。
勿体無いことをしたのかもしれない。
こんな感じの話。
長くなって申し訳ない。
信じるかはみなさんに任せる。
ただ、私はあの時、きさらぎ駅で降りなくて良かったのだと思いたい。