俺が小学校高学年の時分だから、もう30年も前のことだけど、学校帰り、通学でいつも通る橋の上から、魚がいないかと思って川を見たんだよ。
そしたら上流からでっかい人形が流れてきた。
川幅は30mくらいはあったんだけど、ほぼそれいっぱいもあるような人形。
頭の先から足までの長さも30m以上あったはず。
細部まで覚えてる。
人形はあお向けの状態で両手を大の字に広げてて、腕は竹竿を何本も継ぎ足したものに紙みたいな質感の黄色い着物を着せて、頭は黒い烏帽子をかぶり、白い粘土みたいなのでできた顔は大人の胴くらいあって、ちょび髭のお公家さんみたいな表情が描かれてた。
今になって考えれば、昔の水干みたいな服装だったと思う。
全体として鹿島流しに使われる人形の巨大版って感じ。
それが川幅いっぱいに広がって左右に引っかかりながら、ゴミをいっぱいくっつけて、ゆっくり流れてきたんだよ。
驚いて、近くを通りかかった同じ小学校の子に「あれ、何だ、見ろよ」って言って、もう一度、川を見たらそれはなくなっていた。
橋の向こう側にもどこにもない。
それで家に帰って母親にその話をしたが、そんなのを流す行事とかもないし、信じてもらえなかったんだよ。