後輩の話。
彼のお父さんが、一人で初秋の山に入っていた時のこと。
ある夜中、とてつもない悪夢に襲われた。
夢の内容はまったく思い出せないのだが、非常に恐ろしく気持ちの悪いものであったらしい。
意識のどこかで「これは夢だ」とはっきり判っているのに、自力で覚めることが出来ず、どんどんと胸が苦しくなっていった。
夢の中であるのに、実際の体温が下がっているのが判ったという。
これは危険だ!
何とか目覚めようと苦闘していると・・・唐突に、何く音がした。
続いて湿った物が地に落ちる音。
音を聞いた途端、はっきりと目が覚めた。
苦しさは幻のように消えていた。
思わずテントの外を覗いたが、闇の中には何も見えなかった。
翌朝。
テントの傍に奇妙な物が落ちていた。
白い破魔矢(はまや)と、赤黒い柘榴(ザクロ)の実が一つ。
柘榴は破魔矢に貫かれて、ばらばらに弾けていた。
柘榴はその場に埋めて、破魔矢は大切に持ち帰ったという。
今でも後輩の実家の神棚には、その破魔矢が大切に祀られているのだそうだ。