殺して冷蔵庫に

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

刑務官のおじから聞いた話。

妻殺しで長らく服役していた元会社員の男がいた。
刑務所内では特に親しい付き合いをする者もおらず、敬遠されている様子だった。

事件は、小学校教諭をしていた妻が同僚と不倫関係にあると思い込んだ男が、帰宅した妻と口論になり刺殺。

その遺体をしばらく布団に寝かせていたが、腐敗が進んでいったため、趣味の魚釣りで釣った魚を保存するための冷凍庫に、小柄な妻を押し込むようにして入れ、そのまま三年間生活していた。

男はこれまで通り勤めを続け欠勤等もなく、同僚によれば仕事振りは変わらなかった。
心配した妻の実家や勤務先と近所の住民から妻のことを聞かれると、「男と家を出た」と言葉少なに答えた。
怪しんだ妻の両親が何度か男と話し合おうとしたが、男は「仕事があるから」と取り合わなかった。

逮捕のきっかけは、警察や近所の住民に粘り強く相談や協力依頼を重ねてきた両親に、男が古ぼけた布団を粗大ゴミに出したという連絡が入ったことだった。

表面がカビで覆われた得体のしれない大きなシミのついた敷布団がゴミ集積場から回収され調べられた結果、シミは妻と同じ血液型の体液であることがわかった。

事情聴取を受けた男はあっさりと事実を認め、冷蔵庫の中からはミイラ化した遺体が発見された。
遺体は下処理をして冷凍された魚が数匹ずつ入ったビニール袋に埋もれるようにしていた。

男は「この方が(遺体の)冷凍保存に都合がいいと思ったたから」と淡々と答えた。

男は逮捕までの三年間、淡々と自炊生活を送り、時折魚釣りにも行っており、警察が踏み込んだときは、まだ霜が表面に付いた真鯛が台所のまな板にのっていた。

決め手となった布団は、男の寝ている布団のすぐそばに引いたままになっていたことが男の供述でわかった。

「布団」と「冷蔵庫」の話は刑務所内でもすぐに広まり、男に近づく者はいなかったが、刑務所内でも男は相変らず淡々と刑に服し、初老に達するかという年まで過ごした。

出所前に男と話す機会があったおじは、男と少し打ち解けよもやま話をしていた時、ふと「あっさり認めたんはやっぱり、奥さんかわいそうやったからやろ?」と、言ってしまった。
男はすぐに答えず、「いや、もうめんどくさかったんです」とつぶやいた。

男:「夜中に目が覚めると、顔が必ず隣の布団の方を向いとる。暗い中でぼんやりそっちを見ていると人が横たわっているような気イがしてくる。あいつは冷蔵庫の中で膝かかえとるはずや、と考えていると決まって冷蔵庫がガタガタいう」

おじがぞっとしたのは、その心霊めいた話より柔和な年寄りのようになった表情のどこにも恐怖や後悔がないことだった。

男:「そんなこと毎晩のようにされたら、昼間眠くて仕事になりません。勤めが続けられなくなったらどっちみち終わりや、と思って、めんどくさくなって」

おじはそれ以上、男と話すのが耐えられなくなって男を部屋に帰したそうだ。

やっぱり生きている人間が一番怖い、という話。

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