もう三十年近い昔。
畑沿いに防風林が並ぶ道を、親が運転する車に乗ってた。
親戚関係の用事の帰り道だったと思う。
俺はまだ小さくて、後部座席で体を横たえてた。
街灯ひとつ無い夜道を車はベッドライト頼りに走っている。
冬で寒いし後部座席に仰向けになると漆黒の闇になってる窓が見えちゃうので、ちっちゃい俺は目を閉じては開けるを繰り返してた。
傾斜を感じて、平地から丘陵地帯の森の中の道に入ったとわかる。
帰路の半分を来たんだなと安心して俺はうつらうつら。
雪で視界が悪い夜道を走る親は緊張継続中だったろうが、突然、雪道の上を急ブレーキ。
俺は前列シートの後ろに叩きつけられた。
俺:「どうしたの?」
親父:「人をひいたかもしれない」
肩で荒い息をする親父。
降りて確認しても車の下にも前の地面にも何も無く白い雪道だけ。
俺が「野生動物じゃないの?」と聞くと「いや、・・・し、白い着物の髪が長くてボサボサの長いひげ生やしたジイサンが、森の中から突然飛び出して来たんだ・・・」
当時の俺は、コントみたいにお墓で息を吹き返した人が出てきたのかなと・・・。
今は、年取った天狗だったかもなんて思ってる。
ひびりまくりの親父可哀想だった。