友人の話。
機械部品の運搬中、山中に車を停めて弁当を開いていた時のこと。
視界の隅に黒い物が踊った。
烏だ。
二羽の烏がゴミ袋のような物を突付いている。
袋の口は縛られていたが、烏は器用に嘴を使ってそれを解いていく。
感心しながら眺めているうち、ついに袋は口を開いた。
烏は一緒に中を覗き込み「チェッ!」「ハズレ!」と口々に文句を垂れた。
思わず耳を疑った彼を尻目に、烏たちは羽ばたいて空に消えていく。
後に残された袋が、風に吹かれて彼の方に口を向けた。
袋の内から何かが彼を睨んでいた。
薄い頭髪。
無精髭。
脂ぎった中年男の顔だ。
歯を食いしばって目を剥いている。
彼は転がるようにして車から降り、風に転がる袋を取り押さえた。
拾い上げた袋の中に入っていたのは、只の紙屑と菓子パンの空き袋だけ。
もし袋が当たりだったならば、一体中には何が入っていたんだろう?
しばらくの間、そればかり考えていたそうだ。