友人の話。
彼女の実家は小さい山を持っている。
その麓に“入ってはいけない”と、家族から言い聞かせられていた小道があった。
なぜ入るのが駄目なのかは、教えられていなかったという。
幼い頃、その山で遊んでいた時のこと。
きつく注意されていたので、件の小道には近寄らないようにしていた。
と、いきなり「おいっ!」と声がして、肩をグイとつかまれ引っ張られた。
驚いて顔を上げると、お祖父さんが怖い顔をしている。
その時初めて、自分がその小道の入り口付近に居ることに気がついた。
なぜそこに近付いてしまったのか、全然覚えていない。
祖父曰く、黒い影が、彼女の手を引いて小道に入ろうとしていたのだと。
影はぼんやりとしていて、彼女と同じくらいの背丈だった。
人型をしていて、まるで真っ黒い子供を連想したそうだ。
それから間もなく、小道を囲むように鉄条網で柵が設けられた。
彼女の祖父さんと父親とで拵えたらしい。
以来、そこら一帯の原は寄る者も居らず、放っておかれるままだという。