友人の話。
初夏の山で藪を漕いでいた時のこと。
藪を抜けた先。
ちょっと広くなった場所に、場違いな物が転がっていた。
車だ。
軽自動車ではなく普通車の廃棄車両。
誰がこんな山中の林道にまで捨てに来たのだろうか。
白のボディに、水垢汚れがこびり付いて黒い筋を作っている。
近寄ってみて、あることに気がつき嫌になった。
車のボンネットやドアに、地と同色の御札がベタベタと貼られていたのだ。
窓がすべてスモークなのだろうか、彼の立ち位置から中は窺えない。
と、視界の中で何かが動いたのを感知した。
何だ?
動きのあった辺りをよく見ると、助手席側の窓が数センチほど開いている。
暗い車内に何がいるのか、確認するような真似はしなかった。
それ以上近よる気にはならず、そのままそこを後にしたという。
彼はそれからもちょくちょくその近くを通りがかったが、その車は一年もしない内に誰かに撤去されたそうだ。