もう30年近い昔の話になるが、九州のある地方都市で起こった事件である。
5歳と3歳の幼い兄弟(兄妹という説もあり)が、庭先から隣家の座敷にこっそり上がり込み、そこに寝かしつけてあったその家の赤ん坊を発見した。
赤ん坊の母親は近所に買い物に出て留守であった。
初めは赤ん坊をあやして遊んでいたのだが、そのうち子供っぽい好奇心から、「赤ちゃんを切ってみよう」ということになり、台所から持ち出してきた刃物で、赤ん坊の身体を切り刻むようにして死なせてしまった。
幼い兄弟にしてみれば、小動物や昆虫にいたずらをするような感覚だったのだろう。
もちろん兄弟が罪に問われることはなかったのだが、当時は少年犯罪に対する報道の規制もいいかげんだったので、事件直後の兄弟の映像が、モザイクもかけずにTVで放映されてしまった。
また、さすがに全国紙は自主規制したが、地元紙では実名入りで報道されたりもした。
しかし、その後、そうしたマスコミ報道に対する批判が高まったことから、番組のVTRや縮刷版を含めた当時の新聞、出版物など、一切の資料は処分され、事件自体がなかったことにされた。
現在ではこの事件について、公的な情報を得ることは不可能になっているが、当時の町の住民達の間では、時たま口の端に上ることがあるし、成長した兄弟は今でもどこかでひっそりと暮らしているという。