私の友人はオカルト否定派なのだが、そんな彼がなぜ霊を信じないのかと言う話。
彼は高学歴で社会的地位もあり円満な家族を持ち、現在極めて恵まれた生活を送っている。
そんな彼が中学の時、今から二十五年以上も前の事だが、担任の先生から一人の級友の面倒を見て欲しいと頼まれた。
その級友と言うのは・・・中学入学時に新しい制服を買って貰えない程の貧しい家庭で、父親は不在で母親は現在で言えば養育能力が無いと判断せざるを得ない人物であった。
昼休みには一緒に弁当を食べていたのだが、その級友の弁当は毎日、ご飯と梅干と魚肉ソーセージであったと言う。
しかも級友はそれを自分で毎朝作っていると言うのだ。
もっと酷い話もあった・・・。
たまに級友が妹を連れて彼の家に泊まりに来たと言う。
級友は彼に何も言わなかったが町の噂では、母親が男を家に連れ込んだ時には級友兄妹は家から追い出されると彼は聞いていた。
当然の事であるが、級友はイジメの対象となっていた。
ふしだらな母親の事、貧しい家庭の事、その他諸々。
良くある話だが同級生である町の有力者の息子とその取り巻きに、ことさら惨い仕打ちを受けていたと言う話だ。
彼は何もしないで級友を見ていたそうだ。
ここで、現在の彼を知る私は聞いてみた。
なぜその級友を守ってやらなかったのかと?
「子供のルール・・・」とだけ、彼は答えた。
確かにそうだ私も今では子を持ちイジメ問題に大人の視点で綺麗ごとを我が子に言うが、私の中学時代にも子供のルールと言う名の惨い掟がありそれに従っていた事を認めざるを得ない。
そんな級友と彼は昼休み残酷な同級生から逃れる為に図書館に逃げていたらしい。
級友は複雑な家庭環境で育ったにも関わらず純粋かつ聡明であったと言う。
私はこの時、彼が他人を聡明と褒めた事に驚いた。
自信家の彼が褒めるのだから、その級友は相当聡明な人物であったのだろう。
私の驚きに彼は今まで級友ほど賢い者に会ったことは無い、とまで断言した。
中三になり県内一の進学校を目指す彼は級友の進路が気になった。
級友はお金を貰いながら勉強が出来る学校に行くと言う。
そんな学校が日本にあるのかと不思議がる彼に級友は悲しそうに話を誤魔化すだけであったと言う。
ただ、級友は嘘や妄想でそんな事を言っている訳では無かったようだ。
新しい担任と熱心に進路に付いて相談していたらしい。
しかし・・・級友は受験に失敗した。
彼は信じられなかった、級友を受け入れない学校がこの国にあるとは思えなかったからだ。
級友はその一度の失敗を持って進学を断念した・・・。
同時に彼も進学を諦めた級友から離れた。
なぜ?と聞く私に彼は「元々、内申書の為に級友の面倒を見ていたに過ぎない・・・。たまさか、級友が聡明であったので自分の学力向上と言う副産物も付いたが・・・。受験直前期に進学を諦めた級友の面倒を見る。メリットはもはや無く、イジメのとばっちりと言うデメリットを無くしたかったからだ。」
彼はその後、級友との接触を極力断ち受験に専念し見事、進学校に合格した。
そして卒業式の前日、彼は級友からの電話を受けた。
級友は彼に友人として接してくれた事の感謝を述べた後に、この友情が彼に迷惑をかける事となるを詫びた。
彼が級友を最後に見たのは、翌日の卒業式が終わった後でバットを持って同級生に襲い掛かろうとしているところを数人の教師に止められていたのを彼は見たと。
級友は目から血を流しながら一人の同級生に向かって叫び続けていた。
「お前を絶対に殺してやる・・・殺してやる。」
その顔は人間の顔では無く鬼の顔であったと彼は言う。
その翌日、級友は自殺した。
三日前に級友の妹が自殺した同じ場所で首を吊って。
彼が担任から経緯を聞いたのは町の人が噂をしなくなった翌年のお盆の事だ。
級友が自衛隊の学校に進学を希望していたのだが級友の左目は視力が失われていた為、身体検査で落ちてしまったと言う事。
級友は中二の時に同級生にモップの柄で左目を突かれた事と、級友の家庭が貧困であった為、適切な治療を受ける事が出来なかった為、失明してしまっていたのだ。
その上、級友が可愛がっていた中学生になったばかりの妹が自殺した件にも同級生が関与していたらしい。
私がここで『関与していたらしい』と書くのは彼が、級友の妹に何があったのかは話してくれなかったからだ。
ただ非常に綺麗な少女であったそうだ。
彼はオカルトを信じないと言う・・・。
この世に恨みを持った人間が霊となり復讐出来るのならば、とっくの昔に級友が同級生に復讐しているはずだという。
「あの時、級友は町の神社の拝殿に真っ直ぐ顔を向け睨み付けるように首を吊って死んでいる所を見つかった。それなのにあの同級生は今では父親の後を継ぎ町の有力者として生きている」と彼は言った。