あれはいつだったか・・・。
確か自分が中学生のときだったと思うが、日曜日の夜、ベッドに寝そべってテレビを見ているときだった。
CMになったので、今までの体勢を変えて、うぅ~んと伸びをした際、なんとはなしに、部屋の端に置いてある日本人形の方に目をやった。
日本人形は透明のケースの中に入っているのだが、蛍光灯の光が反射し、部屋の中を写し込んでいる。
ベッドに横になる自分の姿も写っている。
しかし、同時に、ありえないものが一緒に写りこんでいた。
伸びの姿勢のまま、固まってしまった。
人間、ああいうときって動けないんだね。
ありえないことが起きている現実について理解しようと、脳がフル稼働している。
数秒後、ハッと我に返り、目を逸らす。
どうせ、幽霊の正体見たり・・・的な見間違えだろうと思った。
もう一度、ケースに目をやった。
やっぱり、ソレは写っていた。。。
ソレははっきりとした犬の顔だった。
チロ・・・俺は独り言のように呟いた。
俺がまだ小さい頃、うちには犬がいたらしい。
親とチロが散歩している後を俺がついていく、という場面をビデオで見たことがある。
だけど、チロは、ある日の朝、えさに農薬を投げ込まれて死んでいた。
そうか、会いにきてくれたのか、チロ。
一粒の水滴が俺の頬を伝う。
俺は泣いていた。
そして、そっと、人形ケースの角度を変えた。
もうそこにチロはいなかった。