小五の冬、その日は雪が例年よりも積もっていた。
俺は「こんな日に授業なんてやってられるか!思いっきり遊んでやる!」と思い初めて仮病を使って学校を早退した。
家から学校までは結構な距離があったので普段は近道を通っていた。
だがその近道と言うのが山の急な斜面に気持ち程度の木の板が置かれているだけ。
さすがに滑ってケガでもしたら大変と思い、遠回りして帰ることにした。
帰り道は異様なほどに静かだった。
普段からあまり車なんて通らない道に積雪の影響で車どころか人の影すらなかった。
俺は一人ではしゃぎながら静かだと言う若干の恐怖心を消そうとしていた。
帰り道の半分位まで来た頃、寒さのせいか小便がしたくなってきた。
「どうせ誰もいないからいいや」と思い立ち止まって小便をした。
小便の熱で雪が溶けるのが面白く、歩きながら小便をやってみようと思った。
その時だった。
俺は足を滑らせて3m位の高さの斜面から滑り落ちてしまった。
滑り落ちた時に俺は何かで腰を打った。
「痛って~・・・なんだよ!」
振り向くと斜面の中ほどの雪が40cm位出っ張っていた。
「なんだ・・・きりかぶかよ」
などとぶつぶつ愚痴りながら雪を払った。
だがそれはきりかぶじゃ無かった。
そこには地蔵があった。
「うわっ!こんな所に地蔵なんてあったのか・・・ん?」
俺は戸惑っているとあることに気がついた。
頭がない・・・。
「やっべ!さっきぶつかった時に取れちゃったのか?!」
そう思った俺は必死に辺りを探した。
だが地蔵の頭を見つけることが出来なかった。
俺はせめてお供え物を置いていこうと思い飴を取り出した。
しかし、またあることに気がついた。
地蔵の首、頭が繋がっていたであろう部分に苔(こけ)が付いていた。
「何だ・・・俺が壊したんじゃないんだ。前から壊れてたんだな。」
気が楽になった俺はお供えしようと思っていた飴を頬張り家に急いだ。
家に着いたのは5時頃だった。
色々あったせいで遊ぶ時間も無くなっていた。
母が帰ってきて晩飯の用意をしてた頃、俺は変な体のダルさを感じた。
少し頭痛もする。
「あ~、風邪引いたかなぁ~」
雪の中で下半身出したり転んだりした事を思い出し、当然だなと反省した。
気がついたら母が晩飯が出来たと言いに来た。
どうやらコタツで寝ていたらしい。
「コタツで寝とったら風邪引くぞ。」
母は一言言い残して台所へ戻って行った。
もう引いてるよ・・・。
と思いながら立ち上がった瞬間、突然激しい頭痛が起こった!今までの頭痛の比じゃない!
「あぐぁ!」と、声にならない声を出して俺は倒れ込んだ。
なんだよこれ!やばいって!・・・。
頭の中を掻き回されるような痛みと吐き気に耐えきれず俺は嘔吐を繰り返した。
どれ位の時間苦しんでいただろうか。
胃の中のものを全て出し切り、胃液さえ出なくなっていた。
そこに、なかなか台所に来ない俺を呼びに母がやって来た。
部屋に入り俺の様子を見て驚愕したようだ。
「どがんした○○(俺の名前)!大丈夫や?!お父さん!お父さーん!」
朦朧とする意識の中で母の声がする。
どうやら父を呼んでいるようだ。
やって来た父も母と同じように驚愕した。
「○○!○○!おい、△△(母の名前)!救急車呼べ!」
両親の後ろで姉と兄が泣きながらオロオロしている。
俺は助けてと言おうとした。
しかし・・・「あ・・・あぅ・・・あぁ・・・」と、声がでない。
そこで俺の意識は途絶えた。
気がついた時には病院のベッドの上だった。
何故か口にタオルがつっこんである。
訳の分からない俺に、側にいた両親が泣きながらよかったと言っている。
俺は2日間意識が無かったそうだ。
頭痛は嘘のように無くなっている。
俺は両親に2日間のことを尋ねた。
「お前が気絶してから救急車を待っとる間、俺達はお前にずっと呼びかけよった。1分位してやろうか・・・さっきまで苦しがっとるとは思えん位にいきなりお前が立ち上がった。そしたらいきなり走り出して家を出て行った。」
「お父さんはお前をそのまま追いかけて、お母さんは車でその後を追った。」
この時点で俺は訳が分からなかった。
「えっ・・・?走った?何で?」
父は俺の問いかけに答えず話を続けた。
「追いかけとったらお前が急に止まってな、川の斜面を滑り降りた。その後を追ったらお前がしゃがみ込んどった。どこかケガしたんやろうかと思ってお前の所に行ったら・・・」
そこで父が口ごもった。
「何!俺はそこで何しよった?!」
「ああ・・・お前が何かぶつぶつ言いよった。俺の頭とか、奴等のせいでとか・・・とにかく訳が分からんかった。俺はお前の気をしっかりさせるために2~3回軽くビンタした。」
父は話終えると同時に深いため息をついた。
俺は父の話を聞いてさらに混乱した。
なんで意識が無いのに走ったり出来たのかと怖くなった。
更に1日の検索入後、異常なしと医者から結果を告げられた。
病院から家に帰る途中俺はふと父の言葉を思い出した。
斜面・・・俺の頭・・・。
そして俺のあの異常なまでの頭痛・・・。
俺は3日前の頭の無い地蔵を思い出した。
帰りの車内で父に地蔵の事を尋ねてみた。
「なぁ、家の近くに首が無い地蔵ってある?」
「首が無い地蔵?いや、家の近くには道祖神が一体あるだけ。」
「そう・・・」
婆ぁちゃんに聞いても分からないとの事。
自分で地元の歴史とか調べたが地蔵と関係ありそうな事は無かった。
結局、あの日見た地蔵が何だったか今も分からない。
だが、中学卒業まで俺は毎年冬に原因不明の痙攣が起こった。
これで終わりです。