気付かないフリが一番の得策

カテゴリー「心霊・幽霊」

俺が大学一年の頃、高校で同じ部活のやつと二人で東北の旅をした。
その時に俺の希望で恐山に行った。

それまでは俺には霊感とかそういう類いのものはなかったが、その旅から帰ってきてから不思議な出来事が起きるようになった。

ただ、元々どんくさいので大抵は恐怖心を覚えないんだけれど、一回だけゾッとした経験をした。

当時は不眠症で、結局寝付けずに夜中の二時か三時くらいにコンビニに行くのが日課だった。

夏も終わりくらいで、夜は気持ちいい感じに涼しく、鈴虫が鳴き始めている以外は本当に静かな住宅街を十五分ほど歩けば目当てのコンビニがある。

そこに向かう途中にはちょっとした畑があり、続いて茶屋、本屋と並んでいる。

畑の辺りに差し掛かったとき、本屋の前で白いものがパタパタと動いていた。

俺は目が悪い上に普段散歩する程度なら眼鏡をかけないのでそれが何かわからなかった。

たしかここら辺にはコニカだかキャノンだか写真屋のあの風でクルクル回る看板があったはずだから、それだろう・・・と思い込んで、特に気にせず歩いていた。

煙草を一本吸ったので足で消したときふと気付いたんだが、そんな看板がクルクル回るほど風は吹いていない。
というよりほぼ無風だ。
そこでおかしいと思うべきだった。

茶屋に差し掛かったとき、本屋の前にある「それ」が何かわかり、全身の血が逆流するような恐怖を覚えた。

白い服を着た女だった。

当時、俺はリングを見ていなかったが、全く貞子と同じような、長い髪を前にだらりと下げた白い服の女が、なぜかフラフープをしていた。

本能的に「これは気付いたそぶりをしてはいけない」となぜか思った。
霊とか幻覚とかの類いだろうが、ただの異常者だろうが、どっちみちこの女を直視したらマズいと思った。

全く気付かないふりをして二本目の煙草を取り出し、火をつけた。

その女との距離は一メートルもなかった。

俺は全く気付かないふりをして、まっすぐ前を見ていたが、視界にはハッキリと女がいた。

そして俺が歩くのに合わせて顔の向きもゆっくり動かしている。
俺が前を通るのを見ているのがわかった。

数秒の間だと思うが何時間にも感じられた。

フラフープ女をなんとか通り過ぎ、足早にコンビニに向かった。

そこでふと疑問が浮かんだ。
フラフープをしていたのに風を切るあのヒュンヒュンという音がしていなかった。
さらに言えばあの至近距離ならフラフープは俺に当たるはずだ。

でももうとにかく一刻も早く人のいるコンビニに入ろうとしたとき、コンビニの向こう側に、白いパタパタと動くものが見えた。

その時は確実に見たわけじゃないが、おそらくアレだ。

一本道の道路のはずなのに先回りされている。

とにかく恐怖でコンビニに入った。

結局あれがなんだったかわからず、帰りは別のルートを通ったら遭遇することはなかった。

ただ、家に帰って全く身に覚えのないレシートがポケットからかなりの量出てきた。

場所もあのコンビニじゃないところのものだった。

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