山仲間の話。
大学で参加した登山サークルに、Kさんという先輩がいたという。
Kさんは何故か皆に避けられていて、いつも一人用のテントで過ごしていたらしい。
気になって他のサークルメンバーに事情を聞いてみたが、誰に聞いても同じ返事が返ってきた。
「あの人はあれでいいんだよ」
仲間外れはいかんだろうと思い、その後のキャンプでKさんのテントにお邪魔することにした。
入口で声を掛けようとし、慌てて口を閉じる。
中から、Kさんとは明らかに別人の声が聞こえてきたのだ。
それも複数人、ボソボソとたわいもない会話を交わしている。
一人しか入れない小さなテントの前からジリジリと後退し、仲間の元へとって返すと、今あったことを訴えようとした。
仲間たちは渋い表情で遮った。
「言うな。言えば確認しなきゃならなくなる」
結局、Kさんが卒業するまで、誰もそのことには触れられなかったのだという。