中学3年生の時の話です。
私の実家は東京近郊にあるかなり小さな町でした。
都市開発で住宅が増えても、未だ田んぼの方が多い様な地域で田んぼの真ん中にある農道と住宅街と田んぼの間にある大きな道の2つが基本的な通学路でした。
農道の方が近道なので普段は農道を通っていたのですが、ある日、住宅街側に住む友人に誘われて、住宅街側の大きな道を通って帰ったのです。
普段は余り通らない道なので、最初はいつもとは違う風景にわくわくしていました。
ですが、徐々に増える明かりの灯っていない空き家の数々(当時うちの町は人が来てから家を建てるのではなく、最初に家ばかりを沢山建てて、ある程度家が増えてから人を呼び込むという方法で住宅街を増やしていました)に私は少しずつ口数が減っていきました。
部活も終わった時間ですので、夜7時位だったでしょうか。
がらんとして空き家ばかり並んだ道は、当然ですが一切の生活感や温もりが感じられず冷たげで不気味に感じたのを覚えています。
そんな住宅街の真ん中に、不自然な空き地がありました。
周りは住宅が建っているのに、そこだけはぽつんと空き地なのです。
かなり前から空き地だったらしく、雑草も当時の私の膝下位まで生い茂っていました。
なんで、ここだけ家がないの?
当時の私は、そう疑問に思ったのを覚えています。
他に住宅を建てるのに向かない土地は幾らでもあるし、見た感じはそんなに住宅を建てるのに向かない土地に見えなかったからです。
ただ、本能というのでしょうか。
その土地を見た瞬間、何か激しい違和感の様なものに襲われたのは覚えています。
周りと、何かが違う・・・・・。
そんな得たいの知れない感覚でした。
私が、思わず空き地の前で足を止めていると、隣の友人が「私、よくココで遊ぶんだよ?」と、そう言って、空き地の中へ入っていったのです。
「ちょっと!何やってるの!」
驚いて、私は追いかけようとしましたが、足が前に出ませんでした。
足、というか、本能がそこに入るのを拒否しているのです。
ですが、そうしている間にも友人はどんどん空き地の奥へと入っていきます。
そして、空き地の真ん中へ着くと、狂った様に甲高い声で笑い出し、バレリーナの様に独りで踊り始めたのです。
やばい!
早く友人をここから出さなくては!
そう思った私は空き地の中に飛び込んでいきました。
そして、真ん中に辿りついた時、私は外側では感じなかった違和感を感じました。
誰かが見てる・・・・・!
そう。
私達以外いない筈のこの空き地で、視線を感じたのです。
しかも、独りではなく沢山の。
冷や汗が背中を流れ落ちるのを感じました。
そして、未だ高笑いをしている友人を半ば引きずる様に外へ出ようとした瞬間、足元から、薄く紫がかった白い湯気の様なものが上がり始めたのです。
よく温泉地などで地面から湯気が立ち上っていますが、丁度あんな感じです。
私も、最初は湯気かと思いました。
ですが、その湯気は消えたり空へ昇ることはなく丁度私達より首一つ分位高い位置まで昇ると、徐々に人の形になったんです。紫と桃色を混ぜた様な肌で、頭には毛髪はなく、がりがりに痩せて、薄い緑色に紫を混ぜた様な色の病院の入院服を着た老人の姿になりました。
老人には眼窩はあるのですが目はなく、真っ暗な空洞が二つあるだけでした。
完全にパニくった私は、まだ笑っている友人を引っ張り走りました。
ですが、進む先の地面からどんどんと湯気が湧き出し、それが全てその老人の姿になっていくのです。
半狂乱になった私は悲鳴をあげながら走りましたが、ついに囲まれました。
殺される!!
連れていかれる!!!
そう思った瞬間。
「君達、そこで何してるの?」
巡回のおまわりさんでした。
「え・・・・・?」
おまわりさんにはこの化け物が見えていないのだろうか。
そう思って見回したのですが・・・・そこには来た時と同じ様にだだっ広い雑草に覆われた空き地が広がるだけで、老人達の姿はありませんでした。
「完成した住宅に忍び込んだり、悪戯が多いから困るんだよねぇ。」
おまわりさんには、私と友人は完成した住宅に忍び込んで悪さをしようとした悪がきとして厳重注意を受けてしまいましたが、恐ろしい化け物から救ってくれたおまわりさんは、私には神に見えました。
そして、友人はというと、おまわりさんに声をかけられた瞬間、まるで操り人形の糸が切れた様に倒れこみ、昏倒してしまいました。
その後、私達は夜遊びをしたということで両親にこっぴどく叱られ、当分夜の外出が禁止となりました。
勿論、あの空き地にはいっていません。
私が見た老人は誰だったのか。
何故、あんな場所にいたのか。
気にはなりますが、関わってはいけない気がしています。
ちなみに、5年以上経っていますがそこは空き地のままです。