その犬が見えたとき

カテゴリー「怨念・呪い」

友人の話。

いつもは寂しい山外れの実家に、珍しく客の多い朝があった。

祖父の狩り仲間ということで、皆で猪狩りに行くのだという。
軽トラ何台かに分かれて山に向かうのを見送っているうち、アレ?と首を傾げた。

祖父の軽トラの荷台に、犬が一匹乗っていた。
日本犬みたく尻尾が巻いた白犬で、太い足を荷台に踏ん張り立っている。
何となく誇らしげな顔をしているように見えた。

彼の実家に犬はいない。
他の者が連れてきた犬は、すべて別のに乗っていた筈だけど・・・。

友人:「祖父ちゃん、一体何処から犬を引っ張ってきたんだろ?」

何の気無しに隣にいた父に、そう聞いてみる。

父:「犬って何のことだ?」

父は不思議そうに聞き返してきた。

友人:「ほらあそこに見える、祖父ちゃんの車の荷台に乗ってる奴」
父:「・・・何も乗ってないぞ」

父は目を凝らしてから、訝しげにそう答える。

犬がいるいないで押し問答していると、祖母が何事かと割って入った。
話を聞いてから目を細める。

祖母:「それシロだよ。前に家で飼ってた犬。あんた(父)も覚えてるだろ。爺ちゃんが狩りに出ると、今でも時々付いていくみたいだよ。そういや、あたしも何度か見たねぇ」

祖母はそこまで話すと、嬉しそうに母屋へ向かった。

父:「シロが見えた日にゃあ、必ず大きなシシ(猪)が獲れるんだよ。今から捌く準備しとかないとねぇ」

友人:「そのシロっていう犬、何で手放しちゃったのさ?」

犬好きの友人は、少し責める調子で聞いてみた。
今彼が家族と住んでいる家では、ペットが飼えないのだ。

父:「別に手放したわけじゃない。シロのやつ、もう死んじまってるんだ。俺が中坊の頃にな。頭も度胸も良い奴だったけど、寿命にゃ勝てんわ」

それきり父は、小さくなる軽トラをずっと見送っていた。

友人:「・・・俺もシロ見たかったなぁ・・・」

小さくそう呟くのが聞こえたそうだ。

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