友人の話。
彼女の母親は非常に霊感の強い人らしい。
しかし確かに霊感は強いのだが、それに対する反応は鈍いというか、のんびりしたことこの上ないのだという。
その母君が彼女に語って聞かせた中にこんな話がある。
母:「昔はうちの実家も薪炊きだったからね。山で薪拾うのは子供の仕事だったんだよ。私も妹とよく裏山に登って仕事してたんだけど、そこでジキトリに憑かれたんだ」
ジキトリというのは一種の餓鬼憑きで、これに取り憑かれると急に空腹になってしまい、力が抜けて動けなくなるのだという。
母:「ふらぁっと目の前が暗くなったんで、ああこりゃ憑かれたわって直ぐわかった。普通はそこで動けなくなるっていうんだけど、何くそ!って踏ん張ったのね。そしたら段々と脱力したのが治まってきて、そのうち平気になっちゃった。あちゃぁ、それが拙かったみたい」
友人:「何が拙いの?」
母:「取り憑かれた人が仏さんのご飯食べたり、それが出来ずに飢えて死んだりすると、ジキトリは離れて山に帰るっていうんだけど・・・。私の場合、そのどちらでもないのね。だから私にはまだあのジキトリさんが憑いているのよ、どうやらこれが」
友人:「それ本当!?」
母:「うん。時々だけど、あの時と同じ空気というか、存在感を首筋に感じるもん。何ていうか、悪さはしないんだけどね。じっと見てるだけ、みたいな。だから放ってる。あれから体の調子もすこぶる良くなって、病気にもまったく罹らなくなったし。ただ、憑かれてからというもの、どれだけ食べても満腹感を感じなくてさ。私が食べる量の割に全然太らないのも、こいつの所為だと思うのね」
そう言って笑う母を見て、彼女は呆れ果ててしまったのだという。
ちなみに母君は非常にスリムで、いつお目に掛かっても元気そうだ。
友人:「母の憑き物、どうにかして譲ってもらえないかなぁ・・・。最近ね、そんなこと考えちゃうの」
ダイエットに何度も挑戦している彼女は、冗談めかして笑いながらそう言った。
目だけは笑っていない彼女の笑顔は怖かった。