救急隊員はすぐに諦めた

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

4年前の2月。
土曜の夜から明け方まで、チャットで長話をしていた。

寝る前に風呂に入ろうとした時、玄関のドアに何かぶつけるような音が。
うちは公営集合住宅で、住民以外は新聞配達くらいしか考えられなかったが、耳を澄ましても、新聞配達員の軽快な足音は聞こえない。
おかしいとは思ったが、新聞は入っていたのできっと新聞屋だよねと納得し、風呂に入って寝た。

それから1時間ほどして、救急車の音で目が覚めた。
建物のすぐ脇に救急車が止まったので、トイレの窓からのぞくと雨の中停まっている救急車よりも、先に視界に飛び込んできたのは窓から斜め下、階段の出口の庇(ひさし)の上に、うつ伏せに倒れた人の姿。

うちは二階で、庇との距離は2メートルくらい。
雨に濡れたその人は、ぴくりとも動かない。

踊り場から庇に降りて、その人を見た救急隊員は「あー、ダメだね。頭に穴あいてるわ」と。

ジャージ姿のその人は、そのときは性別も分からなかったが、後日、ご近所さんの親戚の女性であることを知った。
5階の踊り場から飛び降りたらしい。
飛び降りたのは朝5時半過ぎだという。

玄関のドアに何かが当たったような音は、女性が落ちた衝撃音がドアに伝わった振動だったらしい。
私が風呂に入ってくつろいでいたあの時間、彼女は壁一枚隔てたすぐそばに倒れていたのだ。

その後特に何事も無いが、未だに風呂やトイレでは窓を直視できない。
顔があったりして・・・・・・などとくだらないことを考えてしまうので。

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