もう随分昔の話だけれど。
友達のお兄さんが車で事故を起こして入院した。
それで友達と一緒にお見舞いに行ったんだ。
お兄さんは点滴つけてベッドに横になっていたけ、どわりと元気そうだった。
頭を酷くぶつけたとかで、左の眉毛の上から目尻にかけて縫った傷があった。
友達は引出しとか、戸棚をチェックして次にお母さんが来る時持ってきてもらう物をメモ。
ロビーへ電話をしに行った。
お兄さんの横に座って「痛いの?」とか、「事故の時にどんな風だった?」みたいな在り来たりな事を話てたんだけど、お兄さんちょっと様子がおかしい。
...と思った瞬間に手をやさし~く握られて愛を込めたキスをされちゃった。
お兄さんはその当時流行りの某紳士服の専属モデルでイケメン。
キャ~どうしよう。
本当は私に惚れてたの?
そしたら今度は私の頬にやさし~く手をあてて唇を奪おうとする。
さすがの私も何かが変だと体全体を後ろに引いた。
私に拒否されたからショックだったかなあと思い顔を見ると、いきなり歌を歌い出す。
「ちょうちんをウチワであおってコン、コン。油揚げに醤油をかけてコン」
え?何それ?って固まっていると「さあ、一緒に歌って!」と言うので一緒に歌ってみると、音痴だと言われる。
もう一度やり直しって言われるから仕方なく歌う。
そしたら急に点滴を引き抜いて起き上がろうと暴れ始めた。
拘束されているわけではないけれど、起き上がっちゃいけないかもしれない。
ナースコールをすると直ぐにナースが来て、お兄さんを落ち着かせようとするけど、止まらない。
私も腕をつかんで加勢するも虚しく、すぐにふりほどかれる。
次の瞬間、掛布団が床におちた。
私の目の前には逸し纏わぬ露わな姿のイケメンが。
目のやりどころに困り、とりあえずベッドの足元の方に移動。
ベッドの上でいきなり立ち上がるお兄さん。
そして私に背を向ける形で四つん這い。
固まって動けない私を襲ったのは○| ̄|_私のような状態。
そしてこの恐怖に追い打ちをかけるかのように、大量のウ○チが・・・。
助っ人のナースが来て「あなたは廊下で待っていてね」と惨状を目の前に固まる私に救いの手をさしのべてくれた。
電話をしに行ってた友達が戻って来たのはその数分後。
手には三角形の紙パックのコーヒー牛乳。
さすがに飲めなかったわ。
長くてすいません。
ここからがオカルトです。
その事件から数日後、友達の家に遊びに行った。
友達のお母さんにお兄さんの様子を聞いてみる。
頭を強く打ったショックで一時的な記憶喪失になってたらしい。
あの不思議な行動はそのせいだそうで、今は随分落ち着いてきてると言われた。
「あなたがお見舞いに行った時の事は看護師さんから聞いたわ。ごめんなさいね」とデパートの包装紙に包まれたハンカチを渡された。
私:「私ね、無理やり歌を歌わされて音痴って言われたんですよ。
それが変な歌で、『ちょうちんをウチワであおってコン、コン。油揚げに醤油をかけてコン』ってお稲荷さんの歌みたい。」
するとお母さんの顔色が一瞬にして変わった。
私何かいけない事言っちゃた?
そしたらお母さんが神妙な面持ちで話し始めた。
お母さん:「実はT(お兄さん)が事故を起こした翌日、疎遠になっていた親戚の叔母さんから電話があってね。家族の中で誰か頭を怪我した人はいる?って聞かれたのよ。」
お母さん:「Tが事故で入院して、意識不明で今、お姉ちゃんが付き添っているって言ったの。そしたら叔母さんが、お宅に首が壊れて落ちちゃっているお稲荷さんはない?探して直ぐに供養しないとT君大変な事になるわよって言うのよ。」
お母さん:「それで電話を切ったあと神棚を調べたらあったのよお稲荷さんが。なんでもお稲荷さんは友達のひいおじいさんにあたる人が信仰してたらしく、その方が亡くなった時にお稲荷さんは返したんだって。だからお稲荷さんがそんな所にあるはずはない、でも、あったの」
お母さん:「神棚は毎年暮れの大掃除の時に綺麗にしているし、そこにあれば気づくはず。」
ひいおじいさんは下町の人で腕の良いウチワ職人で、お稲荷さんの棚にはちょうちんをかけていたらしく、自分が油揚げを食べる時にはお醤油をかけていたんだとか。
この3つの要素でお兄さんの歌は構成されていた。
怖いと言うより不思議な気分になった・・・。
お稲荷さんは無事供養してもらってお兄さんも普通になった。
因みに、お稲荷さんは元の所へ戻されると、出戻り扱いされて肩身が狭いらしい。
以上、あまり怖くはないけど”お稲荷さんの不思議”でした。
長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました。