土方の仕事だった頃、工程の関係で数ヶ月山に篭りきりになるハメに・・・。
同僚から「片眉剃って行け」だの「イノシシの肉よろしく」だの言いたい放題言われながら現場へ。
その後は「あれ、これって出張じゃね?社長出張手当付けて」「死ねばか」みたいな揉め事はあったものの工事は終了。
山を降りて久しぶりの下界だぜヒャッハーみたいなノリで出社したら、社内全員「誰テメエ」と。
新手の職場イジメか!?と思っていたら、曰く激ヤセしててわからなかったとの事。
元が筋肉質で100kg近かったし、脂肪はそんなになかったんで、からかうなよと思いつつ会社の姿見で見たら、見知らぬイケメンが。
慌てて休憩所の体重計に乗ったら50kg近いところまで落ちてる!?(約半年でガチムチマッチョがヒョロガリに)
体に倦怠感もないし力仕事に手こずった覚えもないんで、完全に気づかなかった、ってあるかそんな無茶な状況。
山籠りの最中ズボンがダブついた記憶もないし、上着が邪魔になるほど痩せてる状況に気づかない程ぼけてたとはさすがに思いたくない。
事実その後、協力業者に挨拶回りに行って、一緒に山にいた人からも「山にいた時と違う、別人じゃないか?」と言われる始末。
つまりここにいる俺は下山の際に誰かと入れ替わったか?
もしくは帰宅してから出社までの約8時間の間に体に無理なく40kg体重を減らしたスーパーダイエッターと言う事になる。
あるいは元々ガチムチマッチョな俺はいなくて、関係者全員がその謎の筋肉ゴリラを俺だと思い込んでるケース。
どの道どれもありえない・・・。
会社でもさすがに気味悪がられて、翌日休んで警察と市役所と歯医者を巡ることに。
警察で状況を話すが、当然病院に相談しろとやんわりとお断り。
市役所で戸籍謄本確認するも、覚えのない身内なんている筈もない。
歯医者に行ったのは山に行く前治療してたからで、よくテレビドラマなんかである歯型が一致して~というのを期待した。
DNA鑑定は当時の俺は親子判断用だと思い込んでたし、元のマッチョな俺にDNAを取られるような覚えもなかったからスルーした。
歯科医に行くと受付であっさりと俺だと認められた。
あれ?この姿でここに来るのははじめてだと思ったけど?
そんでごく普通に診療、ところが新しく出てきた疑問が・・・。
医師:「あれ、なんでここに犬歯?」
ヤンチャ時代に折って無くした(カルテと記憶は一致)はずの犬歯が生えてると言われる。
でも支払いの保険の記録や詰め物の型をとった時の記録は完全に一致するという事態に。
結論を言うと、この問題、実はそれから10年近く経った今も解決してない。
仕事関係の人間は疎遠な人まで全員「ガチムチマッチョの俺」で記憶されていたし、仕事に関係のない知人は「ヒョロガリの俺」で知ってるがそのディテールが細かいところで皆違う。
彼女とかセックスした相手がいたならまた違ったんだろうが、当時の俺は魔法使い目前の一貫男子校出身のエリート童貞。
身内すらもガチムチ俺派とヒョロガリ俺派で記憶が分かれてた時点で諦めた。
転職したのを幸い俺は俺であるとして生きている。
免許証や公的書類の写真はすべて今の顔だし、改めて文章にしてみると自分でも取り留めないと思ってしまうんだが、これで全部すっきりするようなオチも実は霊が~なんて話もない。
自分にとっては自分があやふやで怖い、という実話でした。