実体験っす。
確か夏頃。
今くらいかな?
当時住んでた西東京のH市で、1Kの安アパートに住んでた頃の話。
その日はいつもどおりバイトから帰り、だらだらとテレビを見ながらメシ食って日付が変わるくらいには寝たと思う。
次に意識を取り戻したのは夜中だった。
物音がして、それで寝ぼけながらも起きてしまったんだ。
木造の安アパートなんて壁も天井も薄いし、住んだ事あるやつなら判ると思うけど、大げさじゃなく隣人の笑い声やら生活音がほとんど筒抜け状態だったし、最初はそういう他人の出した物音だと思った。
寝ぼけてたし・・・。
でもすぐに全身の毛が逆立った。
明らかに俺の部屋のドア叩く音なんだもん・・・。
すぐさまドアが開いて白いロングコートを着た女が部屋に入ってきた!
ドアを叩かれた驚きから思考停止してた俺は女にビビるのに時間が掛かった。
なんとか大声を出そうとお腹に力を入れるんだけど、肝心の声が出ないの。
情けない事に・・・。
それでも搾り出すように思い切り力を込めた時、信じられないスピードで女は部屋から出て行った。
良かった、助かった、なんだったんだ、怖い・・・。
色んな気持ちが頭の中をぐるぐる回って、ひとしきり放心した後、さっきの女、酔っ払って部屋を間違えただけか?という仮説に到達し、とたんに馬鹿らしくなり、女に対する怒りさえこみ上げてきていた。
明日だってバイトだってのに・・・。
悪態をついてまた横になると、今度は音もなく、玄関先に女が立ってる。
cんさlふじこrんヴぃえあ・・・!
もう絶句。
でも、今しがたの仮説で怒りもあったせいか、絶対に大声で威圧してやろうって気持ちになってた。
面白いもんで、それでも声が出ないのね。
なんとかしようと頑張ってると女がズームするみたいにスーっと近寄ってくる。
明らかに歩いてない、コート揺れてないし、怖くて怖くてやっとかすれた声を出すことができた。
するとまるで壊れたビデオみたいに女の距離が少しだけまき戻った。
でも結局それだけの話。
すぐさまコッチに向かって滑り寄ってくる。
俺は馬鹿みたいにわー、わーって叫んでその度に少しずつ距離を戻す。
でも徐々に戻り幅が減っていって近くなってきてるんだよ・・・。
そして目と鼻の先、俺の顔のド正面に女が迫った。
そこでついに渾身の大声を出し・・・俺は絶叫しながら布団から跳ね起きた。
全身寝汗びっしょり。
馬鹿らしいくらいにマンガみたいな寝覚めをしてしまったとヘコむ。
耳を澄ますと隣人が室内を歩く音とか聞こえてくる。
結局コートの女の姿だけ消えて、いつもと変わらない俺の部屋・・・。
今度こそ本当に脱力して、倒れこむように布団に寝そべった。
疲れてるのにもちろんすぐに寝付けるわけないよ。
半泣きでため息ついて目を開けたとき、俺の左側にコートの女が立って俺を見下ろしてる!
ここに至って驚きとかじゃなくなる、もう勘弁してくださいって感じ。
うんざり?
なんかガッカリするんだよ。
でも不思議なことに襲ってこない。
ただ見てるだけ。
もちろんそれだけで怖いんだけど、さっきより何倍もマシだった。
結局女はいつの間にかいなくなっていた。
落ち着いたあと勇気を振り絞って電気の紐に手を伸ばすと、部屋の壁には、ところどころ黄ばんだ白いコートだけがかけられていた。
結局あれがなんだったのかわからず仕舞いです。
コートはいまだに持っていて、春先にはたまに着たりしてます。