友人の話。
彼は仲間たちと共に、年に何度かサバイバルゲームを開催している。
実家の持ち山を使わせてもらい、結構本格的におこなっているそうだ。
その日もいつもの面子でゲームに勤しんでいたという。
藪に潜んでいると、前方の木陰に黄色っぽい影が動くのが見えた。
あんな目立つ格好した奴いたかな?
不審に思ってスコープを覗いた。
ぼんやりとしてよく判別できなかったが、確かに人型をしていた。
しかしどうにも不可解だ。
木の幹や葉などはくっきりと見えているのに、その影だけは霞んだように見えて、輪郭がはっきり捉えられないのだ。
まるでそこだけピントが合っていないかのようなイメージ。
それなのに、何故かそれが人型だと意識が認識してしまう。
その時、近くで連続した発射音がした。
音に合わせてスコープの中の影が、何度か小刻みに震える。
そのままパタッと倒れて見えなくなる。
直後、別の方角から大声で叫ぶ者がいた。
「誰だ今撃ったの!?撃たれたの、メンバーじゃないぞ!!」
彼も慌ててエアガンを下げると、影が見えた場所へ駆け出した。
わらわらと他のメンバーも集まってくる。
影の立っていたと思われる辺りを探したが、誰の姿も見つからない。
「あれ、確かにヒットしたよな?倒れたよな?」
「しかし一体、誰が入ってきたんだ。注意看板は出しているし、そもそも部外者が侵入してくれば直ぐわかる地形だぞ。何でここに入り込まれるまで誰も気が付かなかったんだ?」
「いや俺が発見した時にはもうここに立ってた。ヤバイよ、俺たちより先に誰か来てたんじゃないか?」
地面を探りながら、口々にそう言葉を交わす。
どうやら皆も、あの黄色い不審な人影に気が付いていたらしい。
しかし、あまりにも不審過ぎて撃つのも躊躇われ、彼と同じ様に観察していたのだろう。
一人だけ捜索に加わらない者がいた。
青い顔をしてエアガンを抱きしめている。
「撃ったの俺だよ」
それだけ言うと、口が引き攣ったように震えた。
「何で撃ったんだよ!どう見てもメンバー外だったろ!?」
思わずそう責めたところ、泣きそうな顔になって答えた。
「撃つ心算なんかなかったよ。でも俺、アレと目が合っちゃったんだ」
えっ!?皆が息を呑む。
「どんな顔してたんだ?」
「顔なんかはっきり見えなかった。でも、俺を見て笑ったのだけははっきりとわかったんだ。口を歪めてさ。次の瞬間、思わず撃ってた・・・怖かったんだ」
しばらくは誰もものが言えなかった。
その後時間を掛けて調べたが、結局、フィールドには彼ら以外の存在はいなかった。
妙なことに、発射された筈のBB弾も、唯の一つも見つからなかった。
そのまま解散となった。
酷く後味が悪く、また気味が悪かった。
翌日、メンバーの一人が召集を掛けてきた。
あの影を撃った者だった。
別のメンバーが経営する喫茶店に集合してくれという。
やはりトラブルになったか、そう心配しながら店に向かった。
皆が揃っても、そいつは黙りこくっていた。
しばらく様子を見ていたが、やがて我慢できなくなり、声に出して聞く。
「何かあったのか?」
そう促されて、ポツリポツリと語り出した。
「昨晩さ、眠れなくて。どうにも気持ちが悪くてね。自分が撃ったのが人外のモノだと思いたくはなかったし、かと言って実は本当に部外者を撃ったとも考えたくなかったし。
布団の中でずっと悩んでた」
「それでふと気が付くとさ、ベッドの傍に、誰か立ってたんだ。電気なんて点いてないのに、何故か人だとわかった。血の気が引いたよ。間違いなく、俺がヒットしたアレだった」
「そのまま身動き出来ずにいると、またアレが笑う気配がした。そして何やら自分の身体を触り始めたんだ。グチャッ、グチャッて言う湿った音がして。次にポトッって何か床に落ちる音がした。生きた心地がしなかった」
「すると唐突にその影は消えたんだ。うんそう、現れた時みたいに。布団を跳ね除けて、電気を点けた。部屋の中にはもう何もいなかったよ。床の上に落ちていたこれを別にして」
そう言って小さなガラス瓶を出してきた。
中には汚れたBB弾が入っていた。
「丁度、俺がアレに撃ち込んだのと同じ数。お返しに来たんだな。
凄え生臭いんだ。まるで腐った肉にでも埋め込まれてたみたいに」
そこまで聞いて思い出した。
「あ、そう言えば。かなり前だけど、あの山に入り込んで自殺した女がいたらしいんだ。
実家で昔聞いたんだけど。詳しい場所は聞いてないけど、もしかすると俺たちのフィールドの近くかも・・・」
「何でそんな重要なこと、もっと早く思い出さないんだよ!?」
全員に糾弾され怒られたという。
BB弾は知り合いの寺に持ち込んで、供養してもらったらしい。
呆れたことに、彼らは今でもその山でサバイバルゲームをしている。
ただ、流石にフィールドは別の場所に設定し直したのだそうだ。