北アルプスのある山に登ったときの話。
5、6年前の話なので細かい点は忘れてます。
相棒と二人で朝、駐車場を出て歩き始め、午後の半ばに山頂付近の小屋に着いた。
小屋には大抵、暇つぶしの本などが置いてあるけど、その小屋にはその山に出る亡霊の資料?が置いてあった。
なんでも、山頂から伸びる稜線上に人魂がよく出るとか何とか。
そこで一泊し、次の日は目的地の小さなピークを踏んで引き返した。
下山を開始してしばらくしたら、相棒のペースが妙に速い。
ゆっくり歩かないと危ないよと声をかけたら
「うるさい!」と怒鳴られた。
気分が悪いのでそれ以上話しかけなかった。
半分も下ったあたりで突然目の前を歩いていた相棒が滑落した。
土の斜面だったので大した事はなかったが、それでも15メートルくらいは転がっていった。
比較的幅の広い登山道だったので、なんで道を踏み外すのか不思議だった。
体を打ち付けていたので下山スピードも遅くなり、沢筋の谷をヘッドランプの明かりのみで歩くことになってしまった。
危険なことだと分かっていたが、ビバークして夜中に突然「頭がいてぇー!」なんて苦しみ始めたら手の施しようがないと思って、下山を強行した。
木で組んだ足場や簡易な橋を綱渡りでもするような心細さで歩き、なんとか駐車場まで歩ききって家に帰った。
後日、相棒とその登山が話題に出たとき、「滑落したときは何かに突き飛ばされて落ちた」と言っていた。
下山開始直後に速いペースで歩いたり、俺に怒鳴ったりしたのは耳元でなにかがザワザワとつぶやくのがずっと聞こえていて、不安でとっとと早く下山したかったからだと言っていた。
また、真っ暗な沢筋を歩いていたとき、沢の上に光る人の形のものが見えたり、無数の人魂のようなものが見えたといっていた。
駐車場に着いたらそれらの現象はぷっつり消えたそうだ。
なぜそれをその時言ってくれなかったんだ、と尋ねたら、「その時お前にそんな話をしてたら、正気でいられたか?」と言われた。
確かに正気でいられなかったと思う。
それと、この登山の計画はもともと相棒が持ち出した話なのに、本人は「自分から言い出した覚えなんてない」と言っていた。
少なくとも山の名前くらいは知っていたが、興味を持ったことがないとのことだった。
俺は登山計画を持ちかけられて初めてその山のことを知ったし、相棒は俺がその山の話をするもんだから登山計画を立てたんだ、と言っていた。
山で不思議な体験をしたのは他にもあった気がしますが、これが一番不思議な話でした。