中学二年の頃今にして思えば危ない「失神ごっこ」という遊びが流行った。
相手を強制的に貧血立ちくらみ状態に追いやって、その様子を笑うって趣向。
頭を下げてしゃがませた相手の背後に寄り添って、急激にジャンプするように立ち上がると同時に、みぞおちのあたりを背後からきつく抱きしめて血流を遮断する。
短くて一分長いやつで三分程度失神する。
柔道でいう「おちる」ってやつだ。
意識が戻ると一瞬見当識を失うんだよな。
その様子に個人差があって滑稽だった。
失神した隙に外の往来に運んで目覚める様子を遠くから眺めたり、ベッドの下に頭を押し込んで目覚めたやつが勢いよく起き上がって頭を打つのを見て大笑いしたり、無茶な遊びだよな。
仲間内でも一番大人しかったNを失神させた時のこと。
白目むいたNをベッドの上に放り投げてみんなでにやにやしながら目覚めるのを待ってたんだ。
Nは数回ピクピク痙攣したかと思うといきなりベッドの上に仁王立ちになりしゃがれた別人のような声で「今俺を呼んだのはおまえらかっ!」と叫んで俺達を睨みつけるとそのまま小便を垂れ流した。
俺達は腰が抜けたようになって言葉も出ずベッドの上のNを見上げてた。
もう一度俺達を睨みつけるとNはぶっ倒れた。
誰からともなくその後「失神ごっこ」はタブーになったんだ。