山仲間の話。
サークルのキャンプに参加した時のこと。
一人だけ遅れて来る(Aさん)ことになり、初日の夜に宿営地で合流することになった。
しかしいつまで経ってもそいつが来ない。
山慣れた奴だし、あまり心配はしていなかったのだが、そろそろ日付が変わる刻限になると、流石に何かあったかと皆が不安になった。
結局、日が変わってからかなり経って、そいつはキャンプ地に到着した。
山仲間:「何やってたんだ、心配したぞ」
そう声を掛けたところ、こんなことを言い出した。
Aさん:「いや、予定時間通りに着くよう、ちゃんと出発したんだよ。途中で壊れかけた外灯が灯っている所があるだろ。そうそう、点滅しているあそこ。そこに差し掛かった時にさ、見えたんだ。前方の外灯の下に、襤褸を纏った女の姿が」
Aさん:「こんな遅い時間に、こんな山道に手ぶらで突っ立ってる女っていうのは、そら真っ当な女だと思えないよな?だから立ち止まって遠くから様子を伺っていたんだけど・・・」
Aさん:「それで気が付いたんだ。その女な、時々消えてた・・・いや物の例えとかじゃなくて本当に。外灯が点滅してパッと灯る度に、道の上に姿が現れたり消えたりしてたんだ」
Aさん:「幽霊だったかだって?確認できるはずないだろ!あんなモノ、絶対近よれるかいな。仕方ないから大回りして獣道を通ってきたんだ。だから遅くなったってわけ」
憮然とした顔でそう説明する。
どこまで信じてよいものやら、皆で少し悩んだそうだが、結局そいつの見間違いだろうということにされて、その夜は終わったのだという。
彼自身は、そいつが遅刻した言い訳にオカルトを利用したと考えていたそうだ。
山仲間:「まったく、つまらない言い訳しやがって」
彼が私に最初この話を聞かせてくれた時は、そう言って締めくくってくれた。
その半年後、再びこの話題を彼が持ち出した。
山仲間:「あの話覚えてるか?出たり消えたりする女の話。ついさっきなんだけどな、俺も見ちゃった。ありゃあ確かに近づけないわ」
青い顔をしてそう言う彼に、私は問い掛けた。
私:「それって君が今晩遅刻した言い訳なんじゃ・・・」
山仲間:「違う、本当に見たんだって!言い訳なんかじゃないから!」
その日、例のキャンプ場で、彼と私は落ち合う予定になっていた。
先に着いた私に遅れること三時間、真っ暗になってから彼はやって来たのだった。
必死で女の様子を説明する彼を、果たして信じて良いものかどうか悩んだ。
件の女を目撃した仲間はこの二人だけであり、今も真偽は不明のままである。