夏目○石の夢○夜って小説を知ってるか?
夏目○石が自分の見た十個の夢を綴ったものなのだが、それが何故か気に入った俺は○石がつけていたという夢日記をだいぶ前に携帯のメモ帳でつけ始めたんだ。
もともと夢をあまり見るほうじゃなかったが、夢日記を付けるようになってから見た夢を覚えていることが多くなった。
そうしてかなり夢日記が充実してきたある日のことだった。
毎朝起きた後、忘れないうちに夢日記を付けることにしているのだが、その日の欄が編集されていた形跡があったんだ。
日付が変わってからメモ帳を開いた覚えはなかったが、メモ帳の本文が無かった事もありその時は深く考えずにいた。
しかし、つぎの日の朝メモ帳を開いたときには目を剥いた今度はメモ帳に本文が追加されていたのだ。
『あぜ道走る』
ただそれだけ。
単語の箇条書きという夢日記は丁度日記をつけ始めた頃の夢をよく思い出せなかった俺の書き方によく似ていた。
夜中に起きた時に寝ボケけながら書いていたのだろうか?
だがそんな記憶は欠片もない。
どうにも腑に落ちない感覚を抱いたが、俺にはそれを確認する術はなかった。
だが、その次の日もそのまた次の日も俺の知らぬ夢日記は追加され続けた。
どうやらその夢日記によると、毎日同じ夢を見ているらしい。
そして日を追う事に日記の詳しさは増していった。
俺はその日記を見ているうちにあたかも趣味を共有している誰かがいるように感じられて親近感を覚えていった。
明らかな異常性は自分に害がないということで少しずつ麻痺していた。
『あぜ道走る田舎田山』
『あぜ道走る田舎田山会社を休んだ何かに必死だ』
『あぜ道ただ一人走る田舎田山会社を休んだ何かに必死だ俺は何かから逃げている』
『俺は何かから逃げているだがもうすぐ捕まる』
『もうすぐ捕まるもうすぐ捕まるだが捕まる訳にはいかない』
『捕まる訳にはいかない捕まる前に何かしなければならないどうして追いかけられているのかわからない』
それに反して日記は切迫さを増した。
ある日からは状況がより詳しくなった。
またある日からはその時の感情が説明されるようになった。
日記の長さも増していった。
その不可思議な日記はある日を境にぱったりと止んだ。
最後の日の日記は長かった。
結局俺はその日記を見ても誰の夢なのか、何の夢なのかそれが何を伝えたかったのかは分からなかった。
『逃げなければならないいつか必ず俺は捕まるだろうだが何としても捕まる訳にはいかないだから俺は逃げなければならない。後もう少しで俺は逃げきれる体が重いだがもう奴らに俺を捕まえることはできないだろう俺は取り返しのつかないことをしてしまった俺は人を殺した。これは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれは忠告だこれ忠告だこれは忠告だこれは忠告だ』