友人の話。
単独登山中、古い山寺に泊めてもらったのだという。
夜中、何かに顔を撫でられて目が覚めた。
彼曰く“柔らかい筆で頬を撫でられたみたいな”、そんな感触だった。
寝袋の周りには誰もいなかった。
顔に手をやると、しなやかな感触が触れる。
慌てて明かりを点けて確認した。
髪の毛の束だった。
長さは小一メートルほどもある。
部屋を隅々まで見て回ったが、間違いなく自分一人しかいない。
流石に気味が悪く、別の場所に寝床を移し、再度寝ることにした。
しばらくして、また何かに顔を撫でられた。
やはり髪の毛だった。
その後も彼が寝入ると、天井からパサリと髪が降ってきた。
お陰でろくに寝られなかったらしい。
翌朝、住職に大量の髪の毛を見せてみたが、不思議そうに首を捻るばかり。
礼の言葉もそこそこに、その寺を後にしたそうだ。