私が体験した本当のお話です。
もう3年以上たちますがある専門学校に通っていた私は昼は学校、夜アルバイトという生活を送っていました。
お金が足りなくて、たまに親にねだって送金してもらいなんとか毎日を過ごせていました。
そんな貧乏生活でしたが、夏期講習のスケジュールを書き写していたとき、友達が私に旅行へ行かないかと誘いました。
夏期講習を調整しバイト先にも許可をもらい、友達同士四人で海へ二泊三日の旅行をすることにしました。
変な話ですが旅行の資金を確保するため、私はほとんど毎日食パンにジャムという食生活でした。
もちろん、動物性たんぱく質に少しばかりあこがれましたが旅行へいくため、ずっと我慢していました。
旅行の2~3日前から胃の調子が悪く、胃液がこみあげました。
その時の口の中に、生臭い臭気が漂って気持ち悪くて薬局で胃腸薬を買い、その日はアパートで休んでいましたが次の日もやはり生臭いものが、胃から湧き上がってくる感じでした。
でも、ようやく収まってなんとか楽しみにしていた旅行へ行くことができました。
私と3人の女の子。
一人だけ私とは面識のないSという子がいました。
おしゃれな子で、しゃべると面白く、明るい感じの子でした。
旅館に到着し、チェックインを済ませ海へ泳ぎに行きました。
男の子から声をかけられたりして、少しスリリングで、時間の経つのも忘れて浜にいました。
旅館に戻り、露天風呂に入って部屋に戻り、食事の時間。
そのときの席の配置は、四角いテーブルに私、私の横と向かいがわに友達そしてSは斜め前でした。
すっかり、お腹がすいて目の前には海の幸。
わたしたちは喜んで「いただきまーす」って飛びつきました。
するとSがいきなりです・・・お刺身をわしづかみにして、自分の口へ押し込んだんです。
「ちょっとちょっとあんた!」
友達の一人が驚いてSを止ましたが、彼女は目をかっと見開き、まるで犬がえさを食べるように歯を剥き出しにして、お刺身を食べるんです。
そこらじゅう、食べ物が散らばって、あまりの出来事に私たちは言葉を失い、呆然としていました。
もうひとりの友達は怖くて涙を浮かべていました。
彼女の体を無理やりテーブルから引き離し座布団をならべて彼女を座らせ、寝かせようとしました。
最初、力んで体を硬直させていたけど、座布団に座らせたとたん力が抜けたようにだらんとなり、口を半開きにして上目遣いで私たちをボーっと眺めていました。
もう、食事どころではありません。
私たちはてんかんのように、何かの発作の一種か?
それとも、もともと彼女に精神的な病気があったのか、いろいろ思案していましたが、結局、交代で彼女を看ることにしました。
ようやく気を取り戻したのか、彼女は泣きながら「わたし、変なことしたでしょう?」と私たちに謝りました。
彼女はそれを覚えていないようなので、一部始終を話すと「明日、私だけ帰るね」と一言つぶやきました。
私たちもそのほうがいいと思いました。
ほんとうに怖かったのはその夜です。
寝床についた私たちは気をとりなおし、冗談も言えるようになって和気あいあいと夜遅くまで語り合いました。
Sが先に眠り、続いてもう一人が眠り、私と最後までおしゃべりしていた子も「もうねようか」って切り出し「本当に今日は大変だったね」と私が言うと彼女が「あんたは大丈夫?」って言うんです。
「何が?」
「あんたもやりかけたんだよ」
私がSと同じようなことをやろうとしていたと、彼女は語りました。
もちろん、私にはそんな記憶はありません。
半信半疑でとても気持ち悪くて、眠気が消し飛んでしまいました。
真夜中、みんな寝静まったと思っていたら、くっくっくって笑い声が耳元で聞こえます。
寝返りをうったら、横で寝ていたSが私のほうを凝視して、それでも口元は笑っていて・・・。
私はとっさに、まともに相手をしてしまったらいけないと判断しました。
そして、まるで冗談を言い合っていた延長のような感じで「なっによお~、も~」ってゆっくり寝返りを打って、おふとんをかぶっていました。
体がこわばって、朝まで震えていたと思います。
翌朝、早くにSは帰りました。
私はSと目を合わすこともできず見送りもしませんでした。
もう、このときの友達とは会っていませんが、今でも思い出すのは、旅行前に胃の調子が悪かったこと。
生臭いものがこみ上げていたのは、あれはなんだったんだろうって。