高校生のとき、隣の席に座っていた女子に聞いた話です。
彼女が中学生の時、母方の祖母は亡くなり、既に祖父も亡くなっていた為、祖父母の家は取り壊し、使えそうな家財は彼女の家で引き取ったそうです。
それらの中に、木でできた箪笥(たんす)がありました。
大きめであったため置き場所が彼女の部屋にしかなく、本人は嫌がったのですが無理やり押し付けられる形で彼女の部屋に運び込まれました。
彼女と祖母はあまり仲が良くなく、祖母は二つ違いの弟ばかり可愛がり、話すにしてもたまに電話で挨拶をする程度であり、その挨拶も非常に素っ気無いものでした。
だから祖母が無くなった時も、悲しいという感情は殆んど無く、箪笥も渋々部屋に置いたものの、中には何も入れなかったそうです。
その箪笥が部屋に来てから一週間ほど経った頃に奇妙なことが起こりました。
夜、彼女が机に向かって勉強をしていると「ガタン!」と大きな音が背後で起こりました。
目の前の窓に反射する部屋の様子を見て彼女は硬直しました。
彼女の机の真後ろにその箪笥はあるのですが、上段右側の小物入れの引出しが無いのです。
彼女はすぐに先程の音はその引出しが床に落ちた音であると察しましたが、驚きと恐怖のためしばらく動くことができず、窓に映った箪笥を見続けました。
しかしその後は何も起こらなかったため、気を取り直した彼女は引出しを元の場所に戻し家族にそのことを話しました。
しかし取り合ってもらえず、そのままうやむやになったそうです。
奇妙な出来事からまた一週間ほど経った時の事です。
その間は何も起こらず、恐怖も忘れかけていました。
その夜も彼女は机に向かって勉強をしていると、例の引出しが床に落ちる音が突然起こりました。
ハッと顔を上げ窓に映る箪笥を見ると、やはり上段右の部分がぽっかり開いており、暗い闇となっていました。
彼女は心の中で「何で?どうして?」と繰り返し、呼吸困難に陥る中必死にその箪笥を見続けました。
縦15cm程の暗闇の中、白い物がゆっくりと姿を現しました。
それは人間の額でした。
箪笥の天井に頭頂部が付いたところで動きが止まりました。
彼女がじっと見つめる中、それはゆっくりと時計の反対周りに回転を始め
横向きに顔全体が現れました。
それは祖母でした。
声は聞こえないけれども、その口は動いており「憎らしい、憎らしい」と言っていました。
彼女はかすれる声で叫び声をあげました。
その声を聞いた隣の部屋の弟が入ってくると顔は消えたそうです。
その後、彼女は家族に起きた事の一部始終を話し、何故自分はそんなにも祖母に憎まれていたのか尋ねました。
すると、母親が渋々その理由を話してくれたそうです。
彼女がまだ小学校中学年だった頃、家族で祖母の家に行った際、祖母が姉弟にそれぞれプレゼントをくれました。
彼女には古い子供用の手鏡、弟には亡くなった祖父の大きな虫眼鏡でした。
当時、男勝りだった彼女は弟の虫眼鏡が非常にうらやましく、それを弟から取り上げようとしたところ祖母に怒られ、悲しくなった彼女はもらった手鏡を壁に向かって投げ割りました。
祖母は激怒し、それから祖母との関係は冷えたものになったという事です。
実はその手鏡はまだ幼かった祖母に、戦争で命を落とした祖母の姉がくれたものでした。
その話を聞いた彼女は後日、祖母の墓に行き、心の中で「ごめんなさい」と何度も唱え花と自分が愛用している鏡をお供えしました。
箪笥はまだ彼女の部屋にあるそうですが、それ以来恐ろしいことは起らなくなったそうです。