タイの隣国であるラオスの話であるが、農村部では人間の赤子をさらって喰う妖魔の存在が信じられており、実際に奇怪な事件も起こっている。
赤子の泣き声は霊や妖魔を引き寄せると信じられており、夜泣きをしないように赤子を持つ母は注意し、なるべく外には出歩かないように努めている。
ラオスのとある村では処刑場とされていた大木が村の中心にあり、夜になると下半身だけの人間が木の枝からブラ下がっている光景が見られるという。
村人全員が日常的に霊や妖魔の類を見ているので、日本で言うところの霊感があるとか無いとかいう話は存在しないし、霊の存在は信じるとか信じないという議論も無い。ただ常識として霊というものが存在している。
そんな社会において赤子を喰らう妖魔の存在は間違いなく脅威で、母親達は防衛策として夜に赤子を連れて出歩かない、泣かせない、そして綺麗な織物に赤子を包まないということをする。
赤子の致死率が非常に高かった時代の日本でも、ある程度大きくなるまではボロ布に赤子を包み隠して育てていた。
これは病気を広めて命を奪う悪鬼や悪霊の眼を欺くためで、宝のように大切な我が子をボロ布に包むまいと思わせて妖魔の眼を欺く狙いがある。
ラオスの赤子を狙う妖魔であるが、胃から下の体が無い女とされる。
行き過ぎた愛情や嫉妬から、他人の赤子をさらい喰う。
タイの妖怪『ピーガスー』に似ている。
厄介なことに胃が無いのでその体ではいくら食べても満たされることがない。
現在でも時々、突如として赤子が失踪し、村の大木で見つかるという騒ぎが起きているらしく、妖魔がさらったのだと村人は信じている。